前章

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「横宮さん。 今から私たちと、初詣に行きませんか?」 「えっ?」 驚く声は当人──ではなく、 門前の友達二人から。 横宮さんはあっさりと、 「いいよ」 「えぇっ?」 更に驚いての声は、今度は三人分だった。  ☆ あれから2ヵ月たとうだなんて、 ちょっと信じられない。 秋の終わり、風変わりな時計店を再訪して出会った人を、私は忘れられなかった。 横宮さんの知り合いを名乗り、 それでいて頑なに当人と会うことを拒んだ人。 そしてその当人たる横宮さんは、また会えたらという私の言葉をとりつく島もなく否定した。 驚いても諦めはつかず、様子を見てはまた頼んで、 断られ続けた11月。 汐美(しおみ)明良(あきら)というその人には仲をとりもつと宣言していて、それを内心の言い訳に探りを入れては失敗した12月。 年越しそばをすする頃には、 進展のなさに私はすっかりやきもきしていた。 言葉を濁す横宮さんはいつも少し困った顔で、 いい加減罪悪感もたまっていた。 だからといって、今回はなぜか引きたくなかった。 新しい一年に押し流されてしまう前に、 何としても何か聞きださなければ気が済まない。 この人をこんなにも頑なにさせる事情の何かを。 そうでなければ、私の中で年が明けない。
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