赤錆色の始まり

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もう、何もかもどうでもいい。 『ドン底を経験したら、あとは這い上がるだけ』 『明日にはきっと、何かが変わる』 『この辛さが、いずれ貴女の糧となる』 確かにそうなのだろう。 でも 巷に溢れているポジティブな思考は、今は煩わしいだけだ。 ドン底だと思っていたその先に、まだ底があったら? 明日は変わるかもと期待したのに、もっと落ちていったら? 辛さが山積みになって、人生の糧となる前にそれに押し潰されたら? 「しんど……」 やはり息が切れてきたし、足が鉛のように重い。 骨組み全部が赤茶色に錆びついて、今にも崩れそうな非常階段を歩いて十五階まで上れば、さすがにこうなるだろう。 ビルとビルの隙間にあるここは、年季の入った鉄錆の嫌な臭いだけがやたらと鼻につく。 呼吸を整えながら地上を見下ろすと、人なんか通る気配もなく 落ちたはずみで誰かを巻き添えにしてしまうこともなさそうだ。 もし即死は無理だったとしても、なかなか気づかれないままやがて発見されるまでに、何らかの原因で逝けるだろう。 私のくだらない人生の最期に、実に相応しい場所ではないか。 最期くらい、計画通りにこと(・・)が進んでもバチは当たらないと思う。
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