瑠璃色の未来

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「……お前、警官になってりゃ良かったのにな。あの緊迫した中での反射神経と判断力、デスクワークじゃもったいないぞ」 パイプ椅子に腰掛け直しながら盛村さんがそう言うと、 「ふん、死んでも嫌だね」 顔を顰めた京介がまた、私の手を強く握り返す。 「瑠璃さんが持っていたナイフ、こいつが蹴り飛ばしたんですよ」 「えっ」 「店に突入した時、まさに貴女が市川に向けてナイフを振り翳していた。僕が反応するより早く、京介はナイフを蹴り上げ貴女を突き倒しました」 「あんなことしてごめんな、痛かったろ?でも、それしか思いつかなくて。本当にごめん」 京介が悲しそうに私を覗き込む。 ……知らなかった。 この人が咄嗟に判断してくれなければ、私は間違いなく市川を刺していたに違いない。 「もし間に合わなかったとしても、瑠璃さんの力じゃ ガタイの良い市川の致命傷にはならなかったでしょうけどね。それより怖かったのは」 ひと呼吸して、盛村さんが真っ直ぐに私を見た。 「貴女にトラウマが生まれてしまうことです。相手の生死に関わらず"人間を刺してしまった"というとんでもない心理的外傷」 人間を、刺す── あの男を刺してしまっていたら……
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