赤錆色の始まり

3/12
前へ
/329ページ
次へ
妙に清々しい気持ちになったところで、急に強いビル風が吹き抜けた。 風になびいて逆立つように乱れた髪と、大きく捲れ上がってしまったスカートを咄嗟に押さえる。 (……飛び降りたらきっと、髪型やスカートの捲れ具合なんて悲惨なことになるな) せめて、髪はキツく一纏めにしてズボンを穿いておけば良かったと、この期に及んで後悔しながらハッとなった。 いやいや これからあの世とやらに行く分際で、見た目を気にする必要はないのだ。 どうせ頭は強打してぐちゃぐちゃになるし、全身骨折で身体はバラバラだし、出血も大量だろうし、髪や服装がどっちを向いていようが関係ないではないか。 「九十五点」 地面に叩きつけられて無惨な姿となった自分を想像していたのに、突然 男の声がはっきり降ってきた。 咄嗟にその声を探すべく、錆だらけの手摺りに掴まって身を乗り出し 上を見上げる。 逆光のせいで顔貌はわからないが、一人の男が明らかにこちらを見下ろしていた。 私は思わず息を飲む。 自分の最期のみを描いて、ここまで上ってきたのだ。 こんな陰気臭い場所に、誰かいるなんて考えもしなかった。 「なかなか素敵なパンツだったねぇ」 「は?」
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加