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妙に清々しい気持ちになったところで、急に強いビル風が吹き抜けた。
風になびいて逆立つように乱れた髪と、大きく捲れ上がってしまったスカートを咄嗟に押さえる。
(……飛び降りたらきっと、髪型やスカートの捲れ具合なんて悲惨なことになるな)
せめて、髪はキツく一纏めにしてズボンを穿いておけば良かったと、この期に及んで後悔しながらハッとなった。
いやいや
これからあの世とやらに行く分際で、見た目を気にする必要はないのだ。
どうせ頭は強打してぐちゃぐちゃになるし、全身骨折で身体はバラバラだし、出血も大量だろうし、髪や服装がどっちを向いていようが関係ないではないか。
「九十五点」
地面に叩きつけられて無惨な姿となった自分を想像していたのに、突然 男の声がはっきり降ってきた。
咄嗟にその声を探すべく、錆だらけの手摺りに掴まって身を乗り出し 上を見上げる。
逆光のせいで顔貌はわからないが、一人の男が明らかにこちらを見下ろしていた。
私は思わず息を飲む。
自分の最期のみを描いて、ここまで上ってきたのだ。
こんな陰気臭い場所に、誰かいるなんて考えもしなかった。
「なかなか素敵なパンツだったねぇ」
「は?」
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