第11章 山桜桃の頃

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 気になったものを、お冷を置きに来た店員に注文していた。飲み物と付け出しのザワークラウトがすぐに運ばれてきた。島野はグラスを手に取ると乾杯をしたので、史之も合わせてグラスを軽く持ち上げた。 「飛島さんとデートでも使ったのか。ちょっと変わった食べ物があるよな。この付け出しがなんでザワークラウトなんだろうとか」 「まぁ、そんなところだ」  史之はザワークラウトを口に放り込んで笑っていた。  ジンソーダを一口飲むと、史之は少し真剣な表情になって島野を見た。 「ところで、話があるんだろう」 「あぁ」  島野が珍しく口を重たくして、考え考え話そうとした。  そんなタイミングで生ハムとサラダがテーブルに置かれた。史之は笑いながら生ハムを美味しそうに食べた。気を使ったのか使わないのかそんな気安さが島野の口を軽くしたようだった。 「飛島さんとうまくいってはいる筈なんだけど。その、一線が越えられなくて」  さすがの史之も「はあ゙」と変な声を上げていた。 「一線って、一線か」  もう、2ヶ月近く経ってそういう事を考えるのも当然だろうと思った。しかしそれが飛島にとって次に行く事のできる時間なのかはわからなかった。男を受け入れにくいと言った飛島の少しあっけらかんとした様子を思い出していた。 「そう言われても、相手の同意がないと」 「そうなんだよな。キスはしているんだ」
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