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プロローグ
乙女ゲームはあまり好きではない。
だって、既にヒロインが確立されているから。声はないにしても、アニメ化したらそれすらも付く。
見た目も性格もあって、感情もある――一個人が、”私”だと断言できるはずがない。
私ではない人間が私の好きなキャラと思いが通じ合う場面を見て、私とは乖離している人格がある”私”とされた人間と好きな相手とのやり取りを見て、これ程までに怒りが芽生える事はない。嫉妬に身を焦がす事はない。
博愛ではなく、誰かを救ったり導いたりすることは出来ないし、ましてや出来ない事があれば放り投げてしまう。
ゲームでそうしなければいけない場面や出来事があれば、それは強制的に進むしかないのだから目を向けるけど、ただの人生であるのなら目を背ける事だって選択肢に出てくる。
ここがゲームなのか、漫画の世界なのか、はっきりとしてないが何かの物語の世界である事は解っていたのに、行動を起こさなかった今までのツケである。
画面越しでは出来なかった事を出来る筈なのに、それをしなかった私の罰なのだ。
「アンタな!このままじゃ、本当に死んじゃうんだよ!!その恋心を渡すなんてやめろ!恋心の終わり方なんて幾らでもあるんだから!」
目の前で人の体から転じて、人魚を模した化け物になる私へ必死な説得をしてくれる人がいた。
片想いの相手ではなく、全くの知らない人だった。高校生になって知り合う事になった、この世界の中心人物の一人。
そして、乙女ゲームの中心人物なのに私の名前が雑音にならない人。
苦しんだ。目の前で好きな相手が、自分ではない人間を愛おしそうな目で見つめている事実と向き合う事が。
悲しいんだ。自分には愛情が向けれていない事が理解できてしまう事に。
「こうするしか、わからないんだ。誰かに、私の感情を食べてもらわないと私が壊れちゃう。」
既に心の中はぐちゃぐちゃだ。真っ黒くなって、要らない感情ばかりになる。
そんな私の役割は、この乙女ゲームかもしれない世界で”舞台装置の一つとして、ヒロインと好きな人がハッピーエンドへと向かうお手伝いをしなければいけない。例え、幼馴染みという一番距離に近い役割を与えられて作成されたNPCでも。
ヒロインに、ヒロインが持つ力の由来とその力の使い方、彼女の意志を強くするための舞台装置――チュートリアルだ。
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