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廊下に出るとあまり時間が立っていないこともあるのか、部屋の前で待機していた騎士と目が合う。仕事熱心な事で。
「何処へ行かれるのですが」
「隣」
間髪入れずに答えると、近づいてこようとしていたのか半歩だけ出した前足を元に戻した。どうやら同じく召喚されたシュウの方へと行く事は咎められていないらしい。
ノックもせずに開けると床一面に物を散らかして唸っているシュウの姿があった。音に反応したのか勢いよく顔を向けてくる。
「あ!えーっと、ロウ、だっけ?何か用?」
「これは…何をしている」
シュウの質問をに答えないまま問えば、自分の世界から一緒に持ってきた物だと言う。
脇に避けられた黒い鞄と薄い冊子、筆記用具と思われる物、少し銀色の光沢が見える袋状の物、小さな金属の板……。見たことがない品の数々はどれも良質で高度な技術が使われたものだとわかる。
ほんの少しめくれた場所から見えた薄い紙は等間隔に線は引かれているものの、ざらつきも色もない純白だった。
「いや…持ち物の整理でもしようかなって」
「…」
小さな金属の板を拾い上げる。よく見るとただの板ではなく細かな凹凸が着いていた。そして戻そうとした瞬間、指の触れていた部分から見た目が変わる。
「あー、それはスマホって言って小さなパソコ…じゃない、離れた人と会話したり、いろんな情報を引き出したり保存したりできる便利な道具?みたいなもの」
「…(急に模様が浮かび上がってきている。文字…複数の言語が組み合わさっている…?)」
シュウは固まってしまったロウの手から端末を抜き取ると、床に置いた物を一つ一つ指差しながら説明していく。
見たこともないものの数々に思わず聞き入ってしまっていた。
「これはお菓子。…食べる?」
「…要らない」
非常に気になる。気になるが、ここへ来たのは珍しい珍品を見るためではないと気を取り直した。
外の気配を探る。廊下に立っていた騎士がその場から動いていないのは確認できたがもしもがある。
宛てがわれた部屋には生活魔術具以外なかったから盗聴の問題は大丈夫だろうが、念のために防音の結界は張るべきだろう。
『切り分けられた空間を閉じ 音を塞ぐ遮音の壁となる』
「え?今なんて?」
指を二本立てて部屋の中心、散らばっていた物を片足で退けて二つ指で結界の中心を指す。
キィ…ンと甲高いガラスが割れるような音が響いた後に、うっすらと幕が張られたのがわかった。我ながら美しい防音壁だ。
開け放たれている窓に浮かび上がる幾何学模様に、何が起こったのかいまだに理解していないシュウは先程城を見た時のようにポカンとしているが。
「さて。その広げている邪魔なものを片付けろ。僕はお前に話がある」
散らばっていたものを鞄に入れ直してからベッドの上に座ったのを見て、僕も机のある場所から椅子を引っ張ってきて座る。黒い椅子は自分の部屋にあった物と同じだ。
改めて彼を見ているとなるほど、一般的に見て割と整った顔立ちをしている。
ほんの少しの会話から学があるのはわかったが、さて。
「お前は現状を理解できているか?何故ここにいるのか、自分の力は把握しているのか?僕はそれを聞きに来た。どうしてあの時、僕の言葉に従ったのかも」
「えぇ…いや、ちょっと待ってよ。一気に言われても困るし、君も同じ召喚された立場なんじゃ…」
「……」
「あ、いや何でもないデス。ええと…?現状の理解、だっけ。一応、何と無くは理解しているつもりだけれど。それと、やっぱりあの時の言葉はあんたのものだったんだ」
仲間意識と同意を求められてつい睨みつけてしまったが…なんとなく、ね。誰に説明されたわけでもないのに今の現状を理解しているらしい。
だが使った魔術を感知できていないところを見ると、そちらの素質は限りなく少ないのだろう。
「名前は」
「俺?阿澄秋夜。阿澄が名字…家名?で、秋夜が名前。さっき名乗ったシュウでいいよ。君は?」
「ウィラーロウ」
「へえ、外国の人みたいな名前だ」
呑気におおーと驚いてみせるアスミシュウヤーーシュウは、話し始めるとこちらが促さなくてもぽんぽんと話し始める男だった。
一気に言われても困るとか言っていたが話は全て把握していたようで、内容は僕が次々に投げかけた問いへの返事だった。
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