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僕が自分とは違う世界から連れてこられたのはなんとなく気がついているらしい。僕の格好をまるでもの珍しい物を見るように眺めている。
人が作った召喚の力だからだろうか。時折訳のわからない言葉がが混じるのを聞いていた。
言葉が通じるのは世界を跨ぐ時に理を取得するよう組み込まれているからだろうが…つまりはこの世界にはない何かを指す言葉なのだろうな。
「ライトノベルってジャンルの小説があって、そのジャンルで人気の設定に異世界召喚っていうのがあるんだ。あ、異世界召喚は今みたいに別の世界の人から魔法とか魔術とかで呼ばれることなんだけど。まさか本当にあるなんてびっくりだよね」
「それに言語理解的なのもあるかも。俺日本語だけど普通に通じるし。俺の世界には魔法とか魔術とかはないし、俺自身もそんなもの使えないからなぁ…。フィクションの設定だけど呼ばれたってことはあるんだろうな。俺にも使えるかな。使えたらめっちゃテンション上がんだけど!」
手をパタパタと器用に動かして伝えてくるが、ふぃくしょん?つまり、シュウのいた世界には魔力そのものがなくそれに変わる何かがあった。
見た目からも上等な作りの服を着ているから身分もあり、生活水準も高かったことは伺えるが。
だが魔力がないのになぜ魔法だとか魔術だとかの言葉が出てくるのか。
そう問い詰めるとこれらは人が作り出した物語に出てきたようだ。
想像力豊かなようだな。
「そういえば名前ロウって呼んでいい?…もしかして、偉い人だったりした?って、既にタメ口で話してるけど俺一般人だし…でもそう呼ばないとバレるかも…」
「好きに呼べばいい」
「あ、そう。って、なんであの時本名ダメって言ったのさ」
「お前は気がついていなかっただろうが、あの真ん中の男から嫌な感じがしたからな。真実の名は時に全てを縛り付けておくから覚えておくといい」
「ああ、やっぱりそっち系?」
わかりやすいように濁して伝えると、言わなかったはずの内容を理解しているような言葉が返ってきた。
やっぱり…?
「名前を教えると体を乗っ取られるっていうお約束的なのがあってさ。例えるなら、名前を教えた相手に心臓を取られるような感じで、逆らうと握りつぶされる…的な?……なあ、ロウ。ロウはさ、強い?」
「は?何を当たり前のことを言っている。僕が弱者なわけがないだろう」
どこをどう見たら僕を弱いと思うのか。シュウを睨みつけると、思っていたのと違う目をしていた。
感情の無い凪いだ目。飲み込まれそうなほどの黒に自分の眉間に皺が寄るのがわかった。全てを見透かすような目だ。あまり、好きじゃない。
「だよね。見るからにすごい魔法使いっぽいし」
「何が言いたい」
「いや、言いたいことがあるわけじゃないんだけれど…魔法みたいな凄そうなの使ってただろ。だから凄く強い人なんじゃないかって」
「……。そういえばお前、大体は理解していると言っていたな。勇者とは何か知っているか」
僕のいた世界には存在しなかった言葉。この世界でも使われていると言う事は意味のある物だろうが、知らない。
全く同じだとは思わないが参考ぐらいにはなるだろう。
「勇者?俺の知っている通りなら魔物とか、魔王とか…とにかく悪い奴を倒す者ってことだと思う。勇気ある者で勇者、って書くんだよね。だから。あ!魔王っていうのはーーー」
シュウの話を聞き続けていくと、先程はわからなかった答えを聞くことができた。なるほどね、勇者。
あの王族がなぜ勇者という言葉を使ったのか。
「…かつての歴史のように勇者と呼ばれる存在を召喚してみた。あの無駄に贅を見せびらかした男ならあり得そうだが…まあ、いい」
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