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勇気ある者…勇者。随分と象徴的な存在だが大体わかった。
僕が考えたあの男のやりそうなことは一旦置いておいて、勇者であるために呼んだのなら。
その何かを倒すためにシュウを呼んだんだとすると、こいつも力があることになるが…僕が見る限り武器を振るうことができるとは思えない。
シュウの口から僕が強いのかと言う疑問が出たのは強さを必要としない環境で生きていたからだろうな。
この召喚は神の本意ではない。適合されない人間が出てくる可能性だってある。
召喚には基準があるはずだが…にしては内包する魔力が小さいように感じる。
唯一褒めるとするのならば場に順応する力ぐらいだろうか。流石に異世界から来たばかりの時は戸惑っていたようだが今では落ち着ききっている。
「お前は強いのか、シュウ」
僕の質問に目を丸くすると、口元に手を当てたままうんうんと唸り始めた。ぶつぶつと口の中で聞き取れないような声で何かを呟いているようだが、それほど鮮明に聴こえはしない。
ちーと、だとか特殊なとか、知らん。何か言うのをやめてそろりと僕を見た姿は戸惑いが半分、苦笑が半分の何ともいえない顔だった。
「…うーん、これといって……。そもそも、俺のいた国はずっと戦争とかも何にもないし、魔物もいないから平和そのものだし…強いて言うなら、道場でやっていた剣道?とか?でも無理があるか…?」
「剣道?何だそれは」
「あー、平和な国の武道かな」
…力はあまり期待しないほうがいいな。知らない知識を知っているという点だけ見れば悪くはないかもしれない。
あとはそうだな…本人も知らないような力があるかもしれない。僕のように魔術を使う世界にいなかったようだ。素質があればいいが、魔力は小さいようだしこちらは無理だろう。
僕は立ち上がってシュウの近くへと行く。見上げるように僕を見るシュウの腕を掴み、手を握る。
「手を貸せ」
「え、ちょ」
手を持ち魔力の共鳴をする。共鳴は互いの魔力の相性を見る行為だが他にも幾つか使い道がある。
例えば元々持っている魔力の量を見る時。魔力の流れを見る時。そして
(…ーーこれは)
手に触れわずかばかり僕の魔力を渡した途端、ぽつりと落ちたような感覚がした。まるで水滴の音が反響するような。
シュウが持っている魔力は今はとても少ない。赤子よりも小さな光だ。けれども底なしのように器が広いのがわかる。握っていた手を離してもシュウには何も変化はない。
当たり前だ、大きな皿に水を一滴落とすようなものに誰が気がつくだろう。
(まるで、生きる魔石だな。これだけの容量を持っていながら魔力がないのは世界を渡ったからか?…生まれ持ったものか)
「…?一体何がしたかったんだ?」
「……ふん」
自分一人しかいないのであれば、いつか使うことのできる魔力量では足りない時が来るかもしれない。僕の体が異端の物だとしても。
だがシュウがいるのなら。器通りに魔力を貯めておくことができるのなら、早く進むかもしれない。
僕は魔力を奪い自分のものにできる。ならば確実に味方に引き込むべきだろう。
この世界のあらゆる物に魔力が宿っている。普通に生きるだけでも少しずつ溜まっていくはずだ。
触れた時にわかったことだが、魔力を生成する力は小さい。まるで無理につけられたように。
握っていた手を離し立ち上がる。どれも日を置かないと。
「これから育つかどうかも分からないしな」
「育つ?…って、ちょっと待って俺も聞きたいことーー」
シュウが何か言っていたみたいだけれどどうでもいい。部屋を後にして自分があてがわれた部屋へと戻ると、そのまま整えられた寝具に飛び込む。
「ああ、楽しくなってきた!」
ぼふりと心地よく跳ね返るままに体を投げ出すと、どうにも笑いが込み上げて仕方がなくなる。とてもいい気分だ。
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