01___偉大なる魔術師

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朝、目が覚めると知らない天井が見えた。 起き上がり外を見る。闇に包まれて空に浮かぶ星と月しか見えなかった景色は整えられた庭園がはっきりと見えた。 「……」 部屋には備え付けなのか扉があり、奥に体を清めるための場所があったが寝てしまっていたらしい。無理もない。 神気を浴び、世界間を渡った体は自分が思うよりも疲れていたのだろう。 まだ朝は早い。陽の光が横から入り込み窓の奥の扉を照らしていた。 汚れを洗い落とし服を着込むと同時に扉をノックする音が聞こえる。途中だった髪の水気を飛ばして定位置で結んでから扉を開けた。 扉の前に立っていたのは昨日部屋へと案内してきたゲレンディ。 「おはようございます、ロウ様。朝食の用意ができております。準備はお済みでしょうか」 「ああ」 「ではこちらへ。国王陛下もいらしております」 国王陛下、ね。 ゲレンディの後に着いていきながら考える。考えるのは置いてきてしまった杖を呼び寄せる方法。 短い距離での転移魔術は何度も試しながら使っていた。ちょうど使用する言語の選定が終わった所だったのだ。問題なく使える。 心配なのは世界間の転移そのものだが、あの杖なら呼び寄せることができる。 一番の懸念は贄だ。 世界を跨ぐ魔術なんて自分の魔力だけでは指標も何もない。魔力も足りるかわからないだろう。 要は等価交換だ。釣り合うだけのものを用意すれば、入れ替えるだけで済む。 考えながらも足は動く。脇にいけれた花瓶を眺め、行き交う人を横目に連れて行かれたのはそこそこ大きな扉の前。 「失礼致します。ロウ様をお連れ致しました」 「入れ」 護衛なのか扉両脇に立っている男が扉を開くと奥には、縦に長く伸びる机と上に溢れんばかりに置かれた食べ物の数々が見えた。 正面に座るのは壮年の男。アッシュグレーの髪を品よくまとめ、年相応の貫禄と上に立つ者の覇気に溢れている。この男が国王。 「今もう一人を呼んでいる所だ。座って待っていてくれ」 ゲレンディに案内されるまま席に着いて料理を眺める。歓迎だかなんだか知らないが食べきれないような量。見栄にしても多すぎる。 一つ手に取って口元まで持っていくと焼きたての甘い香りがした。 「食べて待っていてもいいぞ」 「…あっそう。なら遠慮なく」 口に運ぶと軽い食感。一つ食べ終わるとパンを籠から取り、近くにあるジャムを塗って食べる。 近くにある肉や野菜、スープなどに手をつけていると再度扉が開きシュウが侍従だかに案内されて入ってきたのが見えた。 「よく来た。さあかけたまえ。もう1人は既に食べ始めているが、好きなものを食べるといい。食事は暖かい方が美味しいだろう」 シュウはふらふらと引き寄せられるようにテーブルに着くと『いただきます』と一言発してから食べ始めた。異界の食前の祈りか? 一口で食べる量こそ少なめなものの食べ方はとても丁寧だ。やはり良家の子息なのだろう。 最後に来たシュウを満足げに眺めながら、男も食器を持ち上げる。 「話したいことはあるだろうが、まずは腹を満たしてからにしよう。さて、私も食べるか」 テーブルの上の料理もあらかたなくなり、朝食というにはいささか重い食事を終えてから初めに口を切ったのは正面に座る男だった。 「そろそろ一息ついただろうから話してもいいだろうか」 「あ、はい」 「まずは自己紹介からにしよう。私はこの国を治めているダウラス・アロ・レアルディアという。君達の名前を聞いてもいいだろうか」 「あ、はい。俺はシュウと言います。ええっと」 「ロウ」 「ふむ…シュウとロウか。…回りくどい言い方は好まないであろうから簡潔に言わせてもらう。昨夜君たちを呼びだしたのはラジール。私の息子だ…本来、他世界からの召喚は未完の禁呪であって神の意志無しに成らないはずなのだが……どうにも、甘言(かんげん)に惑わされ闇の者と手を組んだらしく…私が気がついた時には君達は既にこの世界へと呼ばれた後だった」 「…っへ?」
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