01___偉大なる魔術師

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「城に伝わる書物には召喚をするためには神の力と意志が加わっていなければできない。今までも召喚自体は例があったが…当時は召喚陣などなく、気がついたら神殿に現れていたのだ」 王の口から語られる話にシュウの顔色が悪くなっていく。 まあ無理もない。自分も勝手に連れてこられた点では同じだろうが、シュウは心構えも何もなく召喚されている。土台が違った。 今この世界に神が認めるほどの脅威は確認されていない。よって自分達二人は勇者ではなく、ただの異世界からの来訪者だ。 「確かに通常では起こりえないことが起きてはいるが、まだ我々の手だけで持たせることができている。人間が大規模に減っているわけでも、地形が変化している訳でもない。何より神の声を聞くことができる神子からも何もなかった」 だから勇者などでは無い…と、静かな空間に落ちた声。 昨晩の出来事全てを否定する事実を全てを説明していく。昨日の今日でわからない部分もあるだろうが事実と、憶測を交えて。 誤魔化して煙に巻くこともできるのにと、まだ残っている料理をつまみながら頬杖をついた。 「過去に神により異界の者が招かれた事から始まった召喚陣の研究は、不完全なため厳重に封印を施している。ラジールは魔術陣研究所に入り浸っていたが、代々王となった者が管理している封印を勝手に解いたのだ。施錠されているはずの鍵が空いていた」 「…それってどういう…」 「…自らの知識欲を満たすためだけに君達の人生を歪めたのだ。ラジールが私の元へと飛び込んできて知ったよ…。『勇者を召喚した私こそが王に相応しい』とな。私が止めることができていればよかったのだが…すまない。君たちを元の世界に戻すことは私にはできない」 自分の息子の制御すらできないなんてどうしようもない。 王であるダウラスの年は壮年のようだがおそらく、見た目よりも歳をとっているだろう。臣下は入れ替われど、王は老いる。 勝手な想像だがもはや王の派閥は落ち、次の世代が台頭し始めてきていたのだろう。よくある話だ。 「君たち二人の人生を歪めてしまっているのに、謝罪することしかできないのが不甲斐ない…」 「…」 「これも知識でしかないが…当時、世界には魔に連なる者達を束ねる王…魔王がいたらしい。そして魔王を倒すために神に呼ばれた聖者…人の間では勇者と呼ばれている者がいた。だが彼らの最後は…私が生まれるはるか前の話で、この国には資料がない。君達はその彼らとも違う経路を辿っている。どうなるかは私もわからないのだ」 「え…?じゃあ、もしかしたら気がついたら消えてるってことも…」 「あるかも知れぬ、としか言えん。魔王と勇者の話は御伽噺や古い資料でしか知らぬのでな。私も先ほど障だけを見たのだが…」 空気が重くなり静寂が耳に痛くなってきた時、食器が落ちる音が聞こえた。 どうやらシュウのところにあった食器を落としたみたいだな。控えていた女が静かに回収していった。 片頬に手をつきながらつまらなさそうに王様の方を見あげ、籠を手で引き寄せて中のクッキーを一枚口に放る。 このタイミングが一番だろう。 神の言う愛し子が勝手に召喚したのと合わせてこの地へ下ろされたのは面倒だと思ったが、勘違いして一緒くたの“勇者として召喚された来訪者“と思われるのなら丁度良い。 ぐらいあるはずだ。 「で。勝手にここに連れてきたあんたらは何を差し出すんだ?僕達のこれからをめちゃくちゃにしたんだ。謝罪することしかできないと言うのは違うだろう。なあ、お前そうも思うだろう、シュウ」 笑いながら投げかけた言葉。 隣の体がびしりと石像みたいに固まるのを横目に、ダウラスの目を見る。 感情の読めない瞳、しかし神妙に一つ頷いたことに口元はゆるりと弧を描いていた。
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