01___偉大なる魔術師

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「君たちが望むことはできる限り叶えたいと思うが…私の一存では決められないこともある。衣食住は勿論だが、他に何か必要なものがあるのなら遠慮せずに言って欲しい」 「僕は決まっている。お前はどうしたい、シュウ」 自分とは違う、この世界に召喚されてするべき事もない青年。 目を伏せ考えた末に出てきた言葉は意外にも、今全ての現状を飲み込んだ上で最良と言える答えだった。 「生きていく上で、必要なことを教えてほしい…?あ、あと俺が何できるか知りたい。一人でも立って生きることぐらいはできるような知識や術が欲しい…かな」 「そうか、わかった。教育者をつけよう。それと潜在能力を知るには魂の石板で知ることができるだろう」 ダウラスは深く考え込むと近くにいた騎士を呼び寄せた。ずっと王の近くに控えていた男だ。 「地下にある魂の石板を持ってこいと伝えろ。今すぐだ。鍵はアデルが管理している……あれは厨房にいるはずだ」 「承知致しました」 「ロウはどうする」 ウィラーロウは一つ考えるように上を見上げたあと、淡々とした声で返事を返した。 「貴重な品を一つ貰いたい。数ある中から今まで僕の築き上げた全てに相応しいものを。歴史みたいな語られないとわからないような物は要らないが」 「聞こえているのなら返事してくれないか?」 フォークを置きながら愉快そうに笑うウィラーロウに、遠慮も何もなく直球すぎるとシュウは口元を引き攣らせた。 アデルと呼ばれる人物の元へと行こうと歩き始めていた騎士も、ギョッとした顔をしながら振り返る。 「必要な物、言っただろう?あとは自由にする権利。面倒臭い輩に絡まれるなんてごめんだからな。もっと言えば、僕はこんな窮屈な場所で籠の鳥になる気はさらさらないんだ」 「…皆の者には追って使えるとして身元を保障することと、身分を作ることはできるだろう。それと…そうだな。魂の石板と一緒に彼の言った物を持ってこい」 「…良いのですか」 「構わん」 王の言葉に最敬礼を行った。 暫くすると出ていった騎士が人を伴い戻ってくる。手には箱を持っているが、後ろにいる濃紺の髪の女も同じぐらいの大きさの箱を持っていた。重厚な赤色に金で模様が描かれているいかにもな箱と、黒い古びた箱。 「我が君につきましてはご機嫌麗しゅう。アデル、只今我が君のご所望の品を用意して参りました。どちらからお使いになられますでしょうか」 「石板の方だ」 「ではこちらを」 片膝をついた片方の黒い箱を置く。手袋を嵌めた手で金の装飾を何度か回すとかちりと何かが噛み合う音が聞こえ、箱が開いた。蓋を持ち、王様の前に差し出す。 「シュウの持つ力からだが」 黒い箱から板状のものを手に持ってシュウの方へ歩いてくる王様に、慌てて席を立つ。 差し出された石板は黒とまでは行かないが墨色と表言できるような濃い灰色で、表面が滑らかに整えられていた。 「魂の石板は持つ力の全てを見透かすと言われている。石板の表面に血をつけることで知ることができる。このように」 アデルが察して小さな短剣を出し、ダウラスが試しにと血を石板につけると淡く発酵したのち、文字が浮かび上がってきた。 名前と種族と年齢。 見知らぬ文字、しかし理解することができるのは神によるおせっかいだろう。現に話すことができている。言語が違うはずなのに。 「石板の情報は血の量によって決まる。私の情報は少ないだろう?これは私の血の量が少なかったからだ」 使うといい、と渡された石板を両手で受け取った。 それと一緒に先ほどのダウラスと同じように指先を薄く切ろうとしているのだろうアデルが手を差し出してきていた。 切られることが怖いのか、ゆっくりと右手を差し出すと、ナイフでほんの小さな傷をつけられる。ぷくりと玉になり滲んできた血をすかさず石板に押し当てた。 「へえ、面白い。僕にも見えるように持って」 「ぅわっ、びっくりした……!!うわぁ…」 自分で抱え込むように持つシュウの手を剥がし水平に持たせる。 親指の先に石板の表面が当たり、アデルがもう大丈夫だろうと未だ流れ出てくる血を止めるための応急処置をした。 途端、ダウラスが使った時よりも強い光が部屋中の溢れた。
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