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騎士が言っていた第二訓練場は無骨な石造で、暗色の石が等間隔に積まれた壁が目を引く。
なめらかに加工された石の壁に細やかな装飾。所々かけているところがあるが修復の後も見受けられる。長く使われているのだろう。
壁には蝋燭ではなくランプが等間隔に並んで設置され、その中を歩いていくと途中からゲレンディが合流してきた。
「直前のご報告となりまして申し訳ございません。まさか手に入れたのち2日で決行に移すとは思わず…」
「いや、お前はよくやってくれた……フラノア」
「お父様、僕も見学してよろしいでしょうか?」
「…まあ、構わんが……ロウ。息子も同席していいだろうか」
ゲレンディの後ろからひょいと顔を覗かせたのはゲレンディに比べると少し小柄な男。
息子だと言った通り似たような顔立ちとアッシュグレーの髪を首元で短く結んでいる。目元は好奇心からかじっと僕と見つめながら人の良さそうな笑みを浮かべていた。
「別にいいけど誰?ラジールとかいう阿呆の仲間なんじゃないの」
「あほ……しでかしたことを考えれば訂正できんな…。アトメラは元々フラノアの専属だったのだ。それを私が無理を言ってラジールの元に就かせたのだ」
「だってラジール兄上いつかやらかすと思っていたからねぇ。僕も良いよって。野心と好奇心もすぎると身を滅ぼすっていうのに僕の言うことは五月蝿いってさ。正統に行けばラジール兄上ではなくシヴァリス兄上が立太子するのに」
「フラノア」
「はぁーい」
口から出てくる暴露話にダウラスは苦笑しながらも仕方ないという顔をする。
今の言葉だけで大体を理解した。
「……して、ロウは魔術師で間違いはないのか?それとも魔法使いの類か?」
廊下を抜けて訓練場だと思われる広い広場に出ると数人が剣を撃ち合っていた。
ダウラスの隣に控えていた騎士が近くへと行き手早に説明している中、ダウラスが僕に話しかけてきた内容はなんとも答えづらいと思う。
魔術と魔法に違いがあるのか以前に、自らが居た世界とこちらの世界の差異もわからないまま適当に答えることだけはしたくなかった。
「さあ?僕はまだこの世界の仕組みを知らない。あんたのいう魔術や魔法が何を指すのかわからない。とはいえ僕の力はこの世界でも通用することは間違いがないけどね」
「あっははは。そうかそうか。それだけ自信があるのであれば身を守るのは容易そうだ!この世界を何も知らないうちに聞いた私が悪かった」
建物内とは違い、ただ地面を整えただけの広い場所の周りは壁に囲まれていて所々ヒビが入ったりえぐれていた。遠目に見える場所にはぼろになった案山子と木屑。
屋根がある場所には刃のつぶされた多種多様な武器が整頓されて並んでいる。
広い訓練場の入り口には先ほどまで剣を振るっていた数名が様子を伺っているのが見えるが、普段から使ってるのだろう。
「少々お待ちください。第二騎士団長が来ます」
さあ始めようと足を踏み出した所で待ったがかけられる。何をと目を向ければ建物の奥からむさ苦しい男が小走りで近寄ってきた。
顔に小さな傷と無精髭、短い赤髪と逆三角形に鍛え上げられた筋肉。ダウラスよりも10セン以上高いんじゃないか?
「陛下、このような場所へ朝早くから何用ですか」
「モルゲ騎士団長。朝早くから鍛錬か?なに、開けた場所が必要でな。少しこの場所を借りるぞ」
「陛下の望みであれば…しかし、後ろの者達は……」
「彼らは客人だ。場所はこれぐらいあれば足りるだろう」
「ああ、十分だ」
僕が話した口調に僅かに眉を顰めたのを見たが、口調を変える気はない。
別に敬いたいわけでもないのだから。
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