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01.5_異世界召喚という名の【間話】
それは広く語られる物語
娯楽の中から生まれた空想の世界の産物、けれども
俺はどうやらその空想世界に現れる
隣にいる、白い衣装に身を包んだ人と共に連れてこられたみたいだ
ーーー
俺、阿澄秋夜は平凡な一市民だった。
日本で生まれ、先祖に外国の血が混じらない純日本人で、男。
家族構成は父、母、二歳年上の姉、祖母の五人で暮らしていて、実家が県内の割とすぐ近くにある。
高校に通っていて現在高3。そろそろ受験どうしよう大学よりは就職かななんて考え始めながら、地元の剣道道場で竹刀を振ったりしていた。
子供の頃から実家の剣道道場に入り浸って過ごしたせいで、運動能力はいいと思っている。まあ向き不向きはあるだろうけど。
高校に入ってからは陸上部に入って走る傍ら、休みの日に気晴らしも兼ねて竹刀を振るっていた。
流行の話題とかも何となく追ったり、特に目立つようなことは何一つとして…や、一つはあるかもだけれど、やってない。
顔面偏差値で多少の差はあるかもしれないが、今の今まで立派?に平凡な人生を歩んできていたはずだ。
はずだった、んだけどなぁ……。
「何でこんなことになったんだろうな…」
朝日が差し込む窓をベッドの上からぼうっと眺めながら、小さくぽつりとつぶやいた。
備え付けられていたクローゼットのなかにネグリジェっぽいもの(男でもこれ着る人昔居たんだっけ?)を見てから、そっと締め直してベッドに沈み、ちょっともやもやする事はあるものの、夢見ることなくスコーンと寝入ってしまっていたのが昨日の話。
寝る前には暗くて見えなかった外の景色が見える。
今現在、俺は異世界とやらにいるらしい。
あれはちょうど学校帰りの事だった。家の近くまで来た時に見覚えの無い猫が居た。黒くてずんぐりとした野良猫。
振り向き様に大きな金色の目に吸い寄せられるようにその後をこっそり着いていったのが悪かったのか。
ちょうど1年ぐらい前に、空き家だった家が取り壊されて空き地になった場所があって。
そこへ猫が入っていくものだから釣られるまま草が生い茂っている中足を踏み入れたら、地面へ着くはずの脚が空を切った。
うん。地面がなかった!!
思わずWhy!?と英語が出そうになるぐらいびっくりしてしまって、気がついたらそう、あの白っぽい場所にいた。
ちなみにだけれど。
その地面に落ちてから白っぽい場所に着くまでの間でなんか、すごく心に響くようなバリトンボイスから言われた。
『お前に力を授けてやろう、愚かな愛し子達だが、悪く思わないでやってくれ』って。
いやもうゾクゾクした。気分じゃなく物理的に。
腹のなかをぐーるぐーるされる感覚?1度自分の体じゃなくなったところにもう一回詰め込まれる感覚?ダメだ、言葉が見つからない。
あれが俗に言う神様的な存在だったのかもと思ったのが落ち着いてからなんだけれど。
んで、見知らぬ場所に連れてこられた所になんと、俺以外にももうひとりいたんだ。
その時はあ、いるなとしか頭に浮かばなかった。
いや…俺の存在どうなったのとか、帰りたいだとか思わない訳でもないけど今ここでそれ言ってどうなるの?って感じ。
周りを囲んでいるのは見るからにやばそうな人だし、俺ただの一般人だし。
ここで泣いたり喚いたりして自分に不利な状況に追い込まれた日には、俺の心は簡単に折れる気がする。
いくら友人に『お前ほんと動じないっつうか、環境に馴染むっつうか…なんか言葉通じなくても普通に生活していけそうだよな笑』って言われてもねえ。
無理、無理。
言葉通じないならボディランゲージ?俺そういう事できないの知ってるでしょーが。
異世界物とか、小説アニメだけで満足してるんでノーセンキューです。
とまあ心で叫んでたんだけど、考えているうちに話は進んでキラキラした人から名前を聞かれた。
日本人、名前を聞かれたらとりあえず答えたくなります。
反射的に返事をしようと口を開いた時、急に頭の中にまた声が聞こえてきた。
ハスキーな女性の声とも、高めの男性の声とも取れる声が。
『僕の声が聞こえているのなら真名を言わない方がいい。あやつり人形になりたくないのなら』
『ああ、僕の言葉は君にしか聞こえてない。あまり変な挙動をすると不審がられるから前を見て答えろ』
って。
まなって、真名のことか!よくあるSF映画のテレパスを思い出して、次に悪魔系ホラー映画の設定を思い浮かべる。
確か、魔術だか魔法だか…あるいは悪魔だかに自分の本当の名前を教えると……なんだっけ?命令なんでも聞くとか存在を縛られるだったはず。そして体を乗っ取られるんだ…怖っ。
某有名映画でも心臓握り潰されていたし…え、あれそういう事だよな?
ひとしきり心の中で身震いした後、隣をちらりと見たらどえらい美形がいて「!?」となってから、もしかして声の正体ってこの人じゃあ…と。
どうみてもコスプレみたいな薄紫の髪とオッドアイなのにすっごい似合っている。
自然な色合いっていうか、ああ、こんな色なんだなって納得する方向の。
流されるまま友達から呼ばれるあだ名(名前を縮めただけ)を言った。隣の美形はロウと言うらしい。多分これも偽名。
んでもって聞こえてきた声がこの人のものだと判明。顔がいいと声もいいのか。
名前の後、召喚した場所にいた男に案内された部屋で、まだちょっと自体が飲み込めていない俺はとりあえず鞄の中身を見ようと思った。
いやほら…サバイバルのお約束だろ?森じゃなくて安全そうな城だけど。
少し経ってからロウが乱入(ただ部屋に来ただけとも言う)してきたりもした。
…というかロウは自分のことしか考えてないように見えるけれど、意外と俺のことみてるんだよな。
言葉きついし態度もでかいしすっごい自信家なのか上から目線なのがなぁ…。
走馬灯のように昨日の出来事が流れてた時、軽いノックの音が聞こえてきた。
そういえば昨日の王様っぽい人、王冠被ってなかったなんて思いながら扉を開けると、昨日外に立っていた騎士?とは違う服を着た美丈夫がいた。
見た目からして貴族の近くで控えてそうな執事っぽい服だ。
金色の髪がめっちゃ似合うワイルド系イケメン。しかしものすごく神妙な顔をしている。
眉がよっても顔面崩れないなんて相当だな。
「朝早くから申し訳ございません、シュウ様。朝食の用意ができております…それと、国王陛下がお待ちです。先程ノックされてもお返事がなかったと私の方に…」
すみません。おそらく俺は爆睡してました。
「あっはい。…ええと、服はクローゼットに入っているものを着ていいでしょうか」
「もちろん構いません。お好きなものをお召しください」
クローゼットにはそれこそいい所の坊ちゃんが切るようなシャツとパンツもあった。
昨日よりにもよって体育があったから気になってたんだよな。少し。
着替えられない状況にいるのならまだしも、ここにはお高そうだけど服がある。なら遠慮しない方が得だと思う。
それに風呂があった。部屋に風呂!!金持ちだ。
だから俺は服こそ昨日のままだったけれど体はすごく清潔でした。
1度扉を閉めてから適当に取り出して急いで服を着替えていく。選んだのはスーツっぽい(スーツではなくぽい。昔の貴族が着てそう)な服。
名前知らないって。
なんと下着類もあまり現代と変わらない(下はゴムではなく紐だった)から心底ほっとしてしまった。
着替え終わってから隣に備え付けられていた姿鏡を見てみると、見慣れた自分の顔がある。馬子衣装にならなくてよかった。
そのまま昨日一緒に持ってきた持ち物の中からスマホを取り出して中に着ているベストのポケットに突っ込もうとして、ふと気がつく。
スマホは圏外表示のままだけれど、充電がマックスになっていることに。これどう見てもおかしい。だっていつも充電は家でしていたから、半分は減っているはずなのに。
スマホのことはひとまず頭の隅においやろう。うん。
もう一度扉を開けると、さっきの騎士がまだ立っている。おそらく待ってくれていたんだと思う。
「すみません、おまたせしました」
「いえ。それでは行きましょうか」
「はい」
迷わないように少し早足で昨日とは違う道を進んでいく。相変わらず覚えられそうにないけれど、少しするとお腹が空くようないい香りが漂ってきていた。
そういえば昨日夜ご飯食べてない。夕方からいきなり夜な世界に来たから時差とかあるかもしれないけれど…。考え始めたらお腹がすいてきた。
金髪の騎士が立ち止まったのは大きな扉の前。下手しなくとも昨日のよりも大きい。
取っ手に手をかけて内側へと押しゆっくり開いていく。
「どうぞお入りください。」
開けた瞬間光じゃなくて、豪華すぎる眩しさに思わず目を手で遮った。
室内を目線だけで見渡すと、天井からシャンデリアが下がっていて、壁際にはさりげなく花がいけられた花瓶が並ぶのが見える。
中央には縦長の机が置かれていて、いっぱいの料理が並んでいる。すごい、食い切れそうにない。
奥には大きな絵画。その手前、背もたれの長い椅子にアッシュグレーの髪を緩く束ねた壮年の男が座っている。
隣に白いエプロンをつけた女の人が白い布を手で抱えながらボトルを持って立ってるけどあれ、メイドとか?
じゃああの人が偉い人なのか…昨日いなかった…よな?
少し目を閉じて記憶を遡ってみる。1日も経ってないし濃すぎる内容だから忘れるはずないけれど……うん。やっぱり俺このひと見ていない。
暗くてよく見えなかったわけでもないから確実に。つまり今が初対面。
「よく来た。さあかけたまえ。もう1人は既に食べ始めているが、好きなものを食べるといい。食事は暖かい方が美味しいだろう」
男の快活な言葉に合わせるようにいつの間にか後ろに立っていたメイドさんが、俺の一番近くにあった椅子を引いた。
待って俺マナーとか知らないから!!!
「づ…づがれだぁーー」
怒涛の1日だったと、さっぱりした後の豪華なベッドの上で思う。
弾みで体が一瞬浮いたのが楽しく何度か弾んで遊んじゃった。子どもじゃないけど楽しかった!
何もかも見るものが初めてで、特に魔法なんてワクワクした!
昨日もロウが何かしていたけれど今日のほうがぽい。凄かった!語彙力がないから凄かったしか出てこない。
にしても。
いやーまさかロウがあそこで心臓止まるかもしれない要求するとも思わなかったし、もらった物で魔法!って感じのを見ることができるとも思わなかった。
すごく血がドバドバ出てたしなんならロウの顔色もすんごい悪くなってたけど、はじめに部屋に来た時よりは心なしか表情も態度も柔らかくなった……と思う。多分。
でも、結局帰れる方法はないらしい。これもお約束だよな…。
あの時はこれからのことを考えるので精一杯で考えつかなかった。だから落ち着いた今、じわじわと心にきている。
家族はどうしているだろう。
学校から帰らなかった俺はどうなっているんだろうっ…て。
ふと、朝のことを思い出した。ベストのポケットにお守りみたいに入れていたスマホ。
取り出して画面をつけると変わらず充電はフルになっている。
電波はないみたいだからほとんどのアプリは機能していないし、新しく獲得も出来ないみたいだけれど、見慣れたものを見るというのは幾分か心を落ち着けた。
あかりのない中、画面の光だけが浮かび上がる。
「……」
なんで充電があるのか不思議で色々弄っていた時に目に付いたアルバムを開いた。写真はあまり取らないけれどたまにノリで取っていた友達や家族の笑顔が、映っていた。
メールボックスにもほとんどメッセージアプリでしかやり取りをしていないけれど、メールアドレスぐらいは登録しておけと姉からの『登録ヨロシク(*´∀`)ノ』の件名だけの空メールがあった。
「今、何してるかな」
ポチポチと登録ヨロシクのメールに返信を書いていく。
自己満足かもしれないけれど、一つの区切りになるように。
「…あ、そうだ」
せっかくだから写真も添付しよう。カメラは電波が無くても使えるし。
窓の外から見える月にスマホを向ける。日本どころか地球ではあり得ない二つの月ーー月と呼べるかも怪しい所だけれどーーを画面に移して写真を撮る。
少しぼやけているけれどそこそこ綺麗に写った夜空の景色にどことなく満足を覚えてからメールに添付した。
「送信…っと」
送信ボタンをタップしたけれど、送信できなかったことにやっぱりなと思って電源を消した。
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