02___喋る杖と首無の霧巨人

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「結局、この場所では何の手がかりも得られなかった。手にしたのはこの世界の仕組みと歴史。そして僕よりも劣る魔力の扱いぐらいか」 『そう簡単に見つかるわけないじゃない。だったらロウもお呼ばれしないよ』 「ああその通りだ。僕が呼ばれたのは、僕が力のある魔術師だかららしいからな。本当かどうかは神のみぞ知る、だが」 『でもロウが神様を信じるなんて初めてだね。あんなに嫌っていたのに』 「お前だって嫌いだろう、クソみたいな世界の神なんて」 『まあ……うん。そうだね』 太陽神アルマレリアの妹ーー 多神を崇めるこの国の神についての資料は少なく、妹神は存在しているものの太陽神に連なる神で知ることができたのは太陽神の血を分つ月の神オストロのみ。 神々の系譜はわからない。 「外に出る」 『そう。じゃあまたね』 にっと少女らしい笑みを浮かべたその姿はひらりと手を振りながら掻き消える。書物を元の位置へと片づけてから杖を持つ。見た目よりも重さのある杖を抱えて足速に塔を後にした。 塔の外は整えられた森が当たり一帯を覆う。すこし前に通り雨が降ったのか、葉の上に幾つもの水滴を乗せている。 人一人が通れる幅の道を歩いて数分、林の終わりは整えた庭園に繋がっていた。 僕の腰にはジェメリを呼び出す時に贄に捧げたものと同じぐらいの厚さの用紙束が吊り下げられている。いつの間にか自室に置かれていた。 気遣いは無用だと言いたい所だが、有り難く使っている。 この中には僕が必要だと書き留めた諸々が入っていた。 庭園から奥まった場所へ、記憶にある地図を頼りに歩く。 あの時は夜だった。今は日が出ているから壁の明かりも消え、たまに風が入り込んでいる。 曲がり角を曲がると城の雰囲気とは違う空気を感じた。 白い柱。真ん中を開けるように等間隔に並べられた椅子。 奥には薄絹を纏った神と小さな女神の神像が置かれている。城内に造られた神殿。 作られていることから、政と信仰は完全に分かれているわけではないことが窺えた。 石像の前の開けた空間は数段下へ下がっていて…そこにはシュウが召喚された時に使った魔術陣が残っている。 近くに寄り地面に書かれた線をなぞると、ざらりとした手触りが指先から伝わり、持ち上げた指には赤黒い砂のようなものが付着していた。 気にも止めていなかったが匂いも何もないこれは…血か。 「全く、悍ましい方法で呼び出したものだ。血が媒介として優秀だというのは僕も認めるが、魔物の血とは」 乾いているがわかる。これは人の血と、それ以外の濁った血が混ざっていると。 「これでは信託の通りに致しましたなどとも言えないな」 時が過ぎ風化しかけているものの大部分が残っている召喚陣は、ほんの少し魔力を流すと線に沿って流れていく。 勿論直ぐに流すのをやめたがこのまま流し続けても不発に終わるだろう。この魔術陣は不完全過ぎる。 「配置する言葉も適していなければ、陣の元となる線すら歪。よく使おうと思ったな」 これでは子供の落書きだろう。僕だってもう少しまともにできる。本当に足りないところは神とやらが補ったのか?だから発動したと? …もしかしなくともそうかもしれないな。僕が見たこの世界の魔法、魔術の足りない部分を信仰で補えるのなら人は簡単な方に流れていく。 一体どの神が手を貸したのやら…さて。 手に持つ杖を魔術陣の中央に突き立て言葉を紡ぐ。 『我が身 我が力の触れる物よ 全てを流す禊の水を』 そう零した僕の言葉は静かな室内に溶けて消えた…美しく磨き上げられた白い床を残して。
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