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手元にある紙の束には塔で得た知識を自分でまとめ、それでも解決しない疑問をこの国の文字で書いている。
言葉を理解することは割と早くできたものの、文字というのは書かなければ身につかない。練習の為に書いているがまだ少し歪な部分があった。
覗いてくる黒髪の頭は眉を顰めなんとか読もうと思っているようだが…まだ全ての文字を読むことができないようだな。
「どうせ読めないだろう。僕の言葉に返事をすれば良い」
「いや、俺これでも結構頑張って覚えようとしてるんだけど!?…ちなみにそれ山のようにあったり?俺知らないこともあるんだけど」
「ふん。すぐさま覚えられたのであれば拍手でも送ってやったのだがな。まあいい。僕もお前が全てを知っているなんてはなから期待していない。認識のすり合わせに知らないも何もないと思うが?まず聞きたいのはこの魔王という生き物についてだがーー」
「俺の質問聞いてねえな?」
初めて聞いた魔王という生物は人間の認識では魔物を統率する存在、邪悪なる者、魔物を生み出した元凶。さまざまな呼ばれ方をしているがそのどれもが好戦的な魔物より上位の存在と認識されている。
自分が居た世界にはそんなものは存在していない。
誰かが姿を見たから魔王と呼ばれるようになったのだろうか。
それとも、姿も見ずに想像上で肥大化した偶像に過ぎないのではないか?僕はそれが知りたい。
想像というものはどこまでも大きくなるものだから。
現に邪神の存在は少ないが置かれていた神話で確認しているのだ。
魔王の響きからするに、邪神の手先と思えるのは僕だけではないはずだが、なんらかの繋がりぐらいはあるだろう。
では何者か?
そう聞かれても僕の想像でしか答えられない。上位指揮系統を持つ魔物。高度な自我と思考を持つ生物。本能的に逆らえない存在。様々だ。
塔を管理する者にも聞いてみたが、本で得られた知識以上の答えはなかった。
「確かに、魔王といえばモンスターの親玉だよな。ゲームのラスボスみたいなものだし、某RPGだと後ろに邪神が控えていたのもあったなぁ。裏ボス的に」
「げーむがなんだか知らないが、お前の世界にも魔王はいたんだな?邪神は神の一種か」
「そんな危険なものいないって!いたらそれこそ大問題だから!…あくまで娯楽の話に出てくるだけだよ。俺宗教だとかの信仰上のあれそれはさっぱりだしそっち系はパス」
シュウのいた場所は戦いなどないと言っていたが娯楽…そんなもので魔王の存在を知るとは。
宗教が絡むとなると邪神は神で確定のようだ。人にとって邪なるものであるのか世界にとっても害となる物なのか。
今はまだ判断材料が少ない。
…そういえば、塔の中に過去に現れた勇者の事について書かれたものがあったな。他者からの視点の様だったが。
「どちらにせよこちらの世界の魔物の姿形は全く知らない。一度実際に見るべきだな」
「え、それって外に出て魔物と戦いに行くぞってこと?俺まだ無理だと思うけど!?」
「自分の身を守れるぐらいにはなったのだろう。まあ誰もお前と仲良しこよしで行こうなんて言っていない。僕1人で行く」
「待て待て」
シュウの言葉に淡々と返すと、途中から話を聞いていたのかモルゲが話の間に入ってきた。
「シュウの言う通りだ。今はあまり外をうろつくべきではない、と私は思うがな」
「モルゲさん」
モルゲを睨みつけるも帰ってきたのは心配そうな顔。
しかしモルゲの目はシュウとロウの身柄の心配というより何か、別の事柄が気に掛かっているようにも見える。
……何を隠している。
「シュウは確かに強くなっている。一般人よりも。だが外へ出て戦う者達に比べれば圧倒的に経験が足りない。ここは力をつける術が揃っているのだから、あえて危険を冒さずに力を身につけたほうが良いと考えるが?」
「シュウが出る話なんて一言もしていないから無用の心配だな。大人しくシュウのお守りでもしながら剣でも振るってーーー」
言い切る前に異変を感じる。気がつかないうちに空が、辺りの空気が濃度を含んだ白に覆われ始める。
咄嗟に杖を構えて風を起こすと一瞬霧が晴れるもののまたすぐに溜まり元の濃さへと戻ってしまった。
「なんだ……これは…」
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