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「!!あなたは!」
「エリーゼ様今です!」
「わかってるわよっ!」
『『『大いなる風の神よ 願いを聞き届け 我が魔力を糧とし今ここに万をも守る障壁を築け』』』
大きな輝石のついた杖を城壁へ突き立てて魔力が形作られていく。
石壁を這うように魔力の壁が上がっていき、城壁を越えて遥か上にある巨人の体をも追い越す程の高さになった。
振り上げられた巨人の手が数人がかりで貼られた風の障壁にあたり魔力の火花を立てた。摩擦による暴風が襲う。
「っ…」
壁はここだけではなくこの都半分を覆い尽くすぐらいの大きさがあるな…魔力壁の両端にもローブ姿の人影が見える。だがそれだけではない。
しゃがみ込み足元の城壁を触るがただの石…いや、何かが違う…これは…?
「壁にも魔力を通しやすくなる刻印がされているのか」
「ええっ、そうよ」
僕の独り言に答えたのは魔導師長の女。名前までは知らなかったが。
杖は地面についたままにしないと均衡が崩れるようだな。微量な魔力が流れているのが見える。
「なぜ攻撃をしない。守るよりも消し去る方が楽だとは思わないのか?」
「こんな大きなの倒せるわけないじゃない!!それに霧者は霧を霧散させる以外にも時間が経てば消えるのよっ!魔力による攻撃は威力が半減するし……って、何で貴方霧者のことを知っているのよ」
「……」
もう一度霧の中にいる巨大な体を見上げた。
白い色に紛れながら見える薄灰色をした巨体は首から上がなく、切れた端から少しずつ霧に溶けている…白霧とは別に体の表面にはゆらめくように灰色の霧が漂っているが濃淡が顔のようだ。
再度緩慢とした動作で腕を振り上げ、振り下ろされる。
半分を覆うように展開されていた魔力壁と腕がぶつかり合い甲高い音が響く。ぶつかった場所はひびが入ったそばから魔力で修復されている。あと少しで振り下ろした力の負荷で割れることは無くなるだろう。
たしかに、消えるのであれば耐えるだけの最も効果的な方法だ。だがそれでは根本的な解決にならないだろう。
それに…これは風に防がれているより、魔力の壁に阻まれている…?
「見ただけでは情報が少なすぎる…僕も触れにいこうじゃないか。未知の存在だ」
石壁の端に足をかける。風の魔力壁は…これぐらいなら僕が通れるだけの隙間は開けられるな。
「ちょっと、まって!今外に出るのは危険よ!」
「うるさいな。僕の勝手だろう」
これぐらいのこと、造作もない。
魔力壁の構造を書き換えて壊さないように穴を開ける。僕が通り抜けたあと直ぐに修復するように付け加えてやろうじゃないか。
この気配も何もなく、違和感が拭えない化物を知るにはもっと近くへ行かなければ。
手をつけた所から人1人が出入りできる穴を開ける。途端に白い濃霧が穴から流れ込んで視界を塞いだ。
「行こうか、ジェメリ」
声は聞こえないものの、わかったと聞こえたような気がした。
ふわりと風を緩衝材がわりに地面に降り立つ。巨人に近づけば近づくほど霧が濃くなるようだ。
まるで自らを隠すようにするために…まさか。
そんな思考があるとは思えない。
石壁から見えたほど近くにいたからか十数歩ほど歩けばすぐに足元に辿り着くことができた。表面はのっぺりとした人の皮膚に近い物だ。
試しに杖の先で触れてみるが硬い感触がする。やはり実態はあるようだ。
もう一歩踏み出し左手を近づける。
指先からざらりとした皮膚に触れると、水よりも冷たい体温を肌で感じる。だが問題はそれではなくーー
「(これ、はっ…!)」
手にした途端、膨大な情報が頭の中に流れる。
頭が…しょりが、おいつかない………
杖が淡く光り、頭の痛みが幾分か軽くなった。
それでも意識が焼き切れそうになるのを何とか食いつなぎながら自分の体を動かす。思考が重い。動かすための意識が削れていくようだ。
触れた手を少しづつ引きながら手が離れた途端、全身から力が抜けたようにぐらりと傾く。慌てて杖を支えに耐えたがまだ一人で立つことすらままならない。
手で頭を押さえながらじっとしていると、ようやくまともに息を吸うことができた気がした。
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