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ここへ来る間に見えた王都に見合う大きさの大聖堂。
大きなガラスの中から見えた内部は、見間違えでなければ作りが城の中にあったものと同じだった。
今ならシュウも訓練場にいるだろうから連れてくるか。
「魔壁の詠唱は神に願う祈祷魔術。祈祷魔術は足りない部分は神の力が介入していると見るべきだろう。神の介入は僕の世界では神職、忌々しい神殿の領域だったが。魔導師と神官を同列には見ない」
『ねぇ、ロウ』
「なんだ」
『私ね、こんななりだからわかるのかもしれないけれど、実はずっと感じていたんだ。うっすらとね、おんなじ気配をーー』
霧の巨人が出現した次の日、僕は困惑を体全体で表しているシュウを伴い神殿に来た。あとは勝手についてきた城使の侍女が一人。
僕としては昨日のうちにでもよかったのだが霧者が出た後、無事に過ぎ去ったことを有り難むためか信者共が多く足を運んでいるのを見て、次の日に回したほうがいいと判断した。
好んで人混みに向かう趣味はない。
「今から行くのって教会?」
「お前の世界では信仰の拠り所をそう呼ぶのか」
「いや…?俺の国以外は八百万の神様がいたし。あ、八百万って言うのは、全てのものに神が宿っているみたいな。他も信じてないことはないけれど、無信仰な人もいたしなぁ。なんか混ざってるかも。教会?神殿?あとメッカとか寺とか神社もだっけ?うーん…」
「…」
様々なものが信じられている…側から聞いていればそれこそあり得ないと思えるものだが。
だがそれ以上に混沌としているからこそ許されているのだとも思う。僕は信仰などに頼る気は微塵も無い。
次の曲がり角を右へ。道のひび割れの間からは名前の知らない草花が生えている。これも近づくにつれて多くなっていくようだ。
神殿の手前に造られた中央の通りよりいささか小さめな広場の中心には、赤い実のなる木が一本植えられている。石畳は今までの道より少し明るい乳白色をしていた。
赤い布をだらりと垂れ下げている正面から階段上に上がり、開け放たれている先に扉はなく神像が数体並んでいる。
正面に見える像には見覚えがあるな…。
僕をこの世界へ呼び出した姿そのもの。目の閉じられた白石の彫像だが僅かに神の残滓が残っているのか気配を感じる。
「……」
「すご……」
「さすがは国の中心にあると言ったところか」
「……ロウ、なんか嫌なことでもあった?ここ、皺寄ってる」
いつの間にか隣に並んでいたシュウは自分の眉間を指差している。
自分でも気がつかないうちに顔に出ていたようだ。無理して感情を隠そうとは思わないが、指摘されるとそれはそれで腹が立つ。
「それがどうした」
「…や、気になっただけで、」
「みなさまお揃いでございますか?」
話しながら神像の前まで来た時、閉じられた奥の扉から一人の人間が僕達の前に歩いてきた。白…いや、白金の髪。うねる髪は腰まで長く垂れている。
男だか女だかは体型では判断できないがちらほらと見える信者の服より幾分か上等な服を着ているな。だが気配が人のそれよりも幾分か遠い。
まるで神の衣を着ているような気配がする。
僕はチラリと城から着いてきた侍女へと向けたが緩く首を横に振った。連絡を入れたわけでもないらしい。
僕も城から出る前に場所を告げただけだ。連絡用の魔道具を使った可能性は拭えないがな。
「?どうされましたか。なにか、私の顔に付いていますでしょうか」
傷一つない手を頬に当てて首を傾げる様は見た目も相まって儚い雰囲気を与えるものだが…
「お前は誰だ」
「そうですね…貴方様の言葉を借りるのであれば、神子と」
神子。
僕の目を見ながらはっきりと口にした言葉は、僕が最も聞き慣れてしまった言葉そのものだ。
「貴方様のことはお聞きしております。私達神殿は今回の召喚には関与しておりませんが…どうぞこちらへ。貴方様が知りたい“モノ”のある場所へご案内致します」
「…お前、一体何だ」
僕が何も言っていないのにさもわかっているように話す。そこに自分の意思など存在しない事はわかる。だからこそ、目の前の存在が何かが分からない。
神子、だと言った。本当に…僕をこの世界へと投じた神の子だと言うのか。
僕の返事を聞かずに案内を始めようとした自称神子は振り向く。
口元に笑みを浮かべ、僕にもう一度告げた。
「私達は貴方様の望む全てをお教えいたします。私はただの神子…アルマレリア様の声でございます」
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