02___喋る杖と首無の霧巨人

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レマを階段の近くの床に寝かせてから僕とシュウも床に座る。 水に濡れていた服は全て乾かし済み。静かに眠るレマの寝息だけが聞こえる中、初めに口を開いたのはシュウだった。 「こうやって話すのは意外と初めてだよなぁ」 「…そうなるな」 「それで、聞いてもいいのか?俺、特に何かするために呼ばれたんじゃないんだろ?あと、これも聞いていいのかわかんないんだけど、ジェメリって」 「別にいいと言っている」 壁に立てかけていた見た目は特に変哲もない木の杖だ。 ロウはその杖に向かって「ジェメリ」と呼びかけると、杖の前の空間に滲み出るるようにして少女の姿が形作られていった。 長い薄紫の長髪に、ロウとは逆の配色をしたオッドアイ。白いワンピースをふわりと揺らしながらニコリと微笑んだ。 『ロウ、この人は大丈夫なんだ』 「話すのなら一度にまとめてしまえば楽なだけだ」 『また、そう言って。…初めまして、シュウ?私はウィル・ジェメリ。ジェメリって呼んで。よろしくね』 「つ、え……ええぇえ?え、どう言うこと?ジェメリ……さんは杖?」 『うん、そう。私はロウの片割れなの。ロウ、連れて行かれた時のこと話してくれるんでしょ?私ずっと気になっていたんだ』 揺れながらロウを見るジェメリに、呼んだのは自分だがこうも目の前から好奇の目を向けられるのは好きではないな。 僕の顔を見て伝わったのか、バツが悪そうに目線を逸らされた。 「お前にもわかるように簡潔に話してやろう。僕はこの世界の人間に呼び出されたわけではない。アルマレリアと名乗る神に投げ入れられた。僕の目的は女神を目覚めさせる事」 「女神を目覚めさせるって…そんな事人間にできる?いや、ゲームとかでは似たような設定あったけれど」 シュウのよくわからない単語を聞き流し、ジェメリに続きを促す。 僕が知るのは僕が見た物だけだ。後から僕が呼び出したジェメリもどうやらアルマレリアに会っているらしいからな。 『私はロウに呼ばれた時にお願いされた。ロウだけじゃ気が付かなかったみたいで慌てていたよ。私はロウといる方が安心するけれど、アルマレリアだって別に壊したいわけじゃないようだし」 「慌てて?」 『こちらの話。ね、シュウも転移する時にデメノテに会ったんでしょう?私が呼ばれる時に見かけたの。怖いこと言われていない?』 「あ、うん。えーと、俺学校の帰りだったんだよね。学校ってわかる?言葉とか計算とか知識を学ぶ場所なんだけど、そしたら猫がいてさ。真っ黒い黒猫。追いかけて空き地の中に入ったら気がついたらあの場所にいたんだ」 「転移の陣が敷かれた場所か」 「そう。でも途中すげぇバリトンボイスに力を授けてやろう云々って言われてなんかグルグルされた記憶はある」 シュウの話は抽象的すぎるが言わんとした事はわかった。初めの日に見た石板に書かれていた戦神の闘心のことだろう。 つまりはシュウはこの世界に連れてこられる時にアルマレリアとは別の神ーージェメリによれば確実にデメノテーーに会った。 アルマレリアはその辺りも把握した上での「好きに使え」だったのだろう。 「そう言えば俺を召喚したキラキラ男、あれ以来見ていないな」 この世界へ来た時のことを思い出していたからか、シュウを呼び出した男の事が思い浮かぶ。 だが…聞いていないのか? 「なんだお前、知らないのか」 「え、何?ロウ聞いたの?」 「お前が気にしていないようだから特に言わなかったのかもしれないが…王位継承権の剥奪と制約をかけ降格し、一代限りの公爵となったそうだ。まあ見た目がそうなだけで飼い殺しだろうが」 「飼い殺しって…」 「当たり前だろう。むしろ魔力を封じず術者として生きる道を残された分だけ温情があると思うがな」 禁呪と呼ばれているものを使ったのならば使うことができないよう、魔力を奪った上での幽閉という道もあったはずだ。 僕の知る限りではだが。 「…ロウはこれからどうするんだ?さっきみたいなの、まだあるんだろ」 「……」 どうする、か。正直に言えばまだ情報が足りない所ではある。だが初めてこの世界に来てジェメリを呼び出した時に聞こえたあの声。 『猶予は一年ーー』 今すでに一月は過ぎている。 「ジェメリ。期限は聞いているか」 『…うん。私が来てから一年。それ以上は持たないかもしれない。アルマレリアも消したいわけじゃないから急がないと』 「……そう」 ジェメリの言葉にやはり時間は残されていない事を知る。簡易的な世界地図を思い出していたがこの世界はそこまで大きくはない。 大陸の外は荒れた人どころか魔物ですら生きることができない大地が広がっている。広大な、荒地だ。 シュウの言葉に応えようと口を開こうとした時、寝かせていたレマの肩が僅かに震えた。 「ぅ……ん」 ジェメリがひらりと手を振って姿を消す。同時に目を開いたレマの瞳は白く濁ったものではなく、澄んだ青い色をしていた。
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