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「そう言えば女神を目覚めさせるってさ、なんていう女神だかわかるの?」
「当たりはつけてある」
塔で調べた時に候補としてあがった女神の名。
それを肯定するかのように、レマがわかったように手を叩く。
「ある時から、系譜から消えてしまわれた神は存在しております」
戻ってきた神殿の祭壇。その側面に描かれた多くの神の姿の前を通りたレマが立ち止まったのは…下へと手を伸ばし、死者を掬い上げるかのように描かれた髪の長い白髪の女神。
「全ての夜と死を司る女神、ロスワンダ様……私が知る消えた神です」
ざり…と石の壁を撫でながら告げられたのは神が寄越した話と同じ女の神で、無表情に涙を流す姿はどこか、アルマレリアの面影があった。
次の日…ではなく三日後。
シュウは行くと決めてから礼を言いたいと言い出したからだというのと、ダウラスから準備があると止められての事だが。
謁見の間でダウラスに城を出る事を告げると、そうかとだけ返ってきた。
元から長居するつもりはないと言っていたからな…何故言葉を飲み込むような表情をしているのかは分からないが。
周りにはモルゲやエリーゼなど長を受け持つものから何度か言葉を交わした者達が並んでいる。
王の隣に並んでいるよく似た顔立ちの男は話に聞いていた第二王子だろう。
「本当に行くのか」
「そうだけど何?別に無理な要求しているわけではないんだ。むしろ面倒事が消えて嬉しいんじゃないか」
「ちょ、ロウ!」
「いや、別に引き留める気はない」
ダウラスが席を立ち、脇の小さな置き机に置かれていた小さな箱を持ってきて僕とシュウに差し出した。
中を開けると、赤い台座の上に楕円形の硬貨が下げられたペンダントが二つ乗せられていた。
持ち上げて見た偽造防止なのか彫られた文字に隠れるように魔力で固定された文字が見える。
中央には透明な石が嵌め込まれている。
「お前達の身分証として用意した通行硬貨だ。一般的な物は出身国だけが刻まれるがこれは身分を保証する。魔力を通すと中央の石が色付く。持ち主以外が首を通そうとすると反発するようになるから今やるといい」
「へぇ…」
台座から持ち上げた鎖はシャラリと軽い音を立てて手から落ちてゆく。
銀と、銅。
中央の石は見たことがないがおそらく、神の涙と呼ばれる鉱石か。
山頂に降り積もる魔力の結晶が圧縮された結晶体。一年を通して取ることができる…だったか。
「これを見せれば問題なく街や国境に入ることができるだろう」
「すっげぇ…色付いた……」
隣を見るとシュウが魔力を流した硬貨を光に翳していた。
透明だった結晶は半透明に白く染め上がっている。
自分が持つそれにも魔力を通すと、僕の目と同じように緑と金の2色が入り混じった。
「2色とは初めて見るな。…ふむ、2人とも問題なく染まったようだ。それは首からかけておくと良いだろう」
「…まあ、ありがたく貰うけど。じゃあ僕は行くから」
「色々とありがとうございました!」
後ろへ歩みを進めながら身分証である通行硬貨を首の後ろで留め、服の中に入れる。
すっかり覚えてしまった城の中を無言で進み外へ通じる大門の前まで行くと、門の側に白いヴェールを被ったレマが軽く頭を下げた。
ヴェールの端を緩く結び、風に靡くように空気をはらむ服装は動きやすさのためか数箇所スリットが入っている。
「お待ちしておりました。ロウ様、シュウ様」
「レマか」
「はい」
「レマさん、その格好で動きにくくないんすか」
「敬語は良いですのに…お導きにより旅に出ることとなったとお伝えしましたら、この服を頂きました。神殿の皆様の祈りが込められているのです。それに、思ったよりも動きやすいのですよ?」
「そろそろ行くぞ」
「はー「ちょっと待ってよ!!」……い?」
シュウの間延びした返事に被さるように聞こえた声。
城のある方から聞こえたそれに振り向くと、アッシュグレーの髪を首元で結えた男が小走りで近づいてきていた。
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