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「僕も連れて行ってよ」
男にしては小柄な体に軽鎧をつけて立ち止まったのは、ジェメリを呼んだ時に見かけた王子だった。
確か名前は、フラノア。
腰の両脇には短めの片刃の剣が吊るされている。
「フラノア殿下!え、いいんです?王族ですよね?」
「へへ、その辺は問題ないよ!お父様には昨日のうちに伝えているからね!」
「あの顔はお前の事だったか……城を出ることはそんなに伝えていないはずだけど?」
「僕の情報網を舐めないでほしいなぁ。別の国ならまだしも、王都内のことなら大体わかるんだからね?あっ、でも神殿は別だよ!」
言葉を飲み込むような…いや、実際目の前にいる第三王子の事を飲み込んだんだろうが。
暗に僕達の行動は知ろうと思えば知ることができるとはっきりと口にする。
王族か…。レマの方を見たが、緩く微笑んだまま変わりのない笑顔を浮かべていた。
「私は特に何も言うことはございません」
「そうそう!君が何を考えているのかはわかるけれど、この国は政治と宗教はしっかり分かれているから心配しないでよ。君について行ったら楽しそうだし、何よりラジール兄上がああなっちゃったから、面倒なことになる前に君たちと行動しようかなって!」
「その言い分だと僕達にお前の言う面倒なことが降りかかる未来しか見えないな」
「だ〜いじょうぶ!僕はシヴァリス兄上が1番だって行動で示したいだけだから。それに、僕が居れば結構お買い得だよ〜?」
フラノアは腰に手を当てながら僕とシュウ、レマに向かって指を刺しながら言う。
「ロウはすごく強くて僕が知らないことも色々知っているよね。シュウもモルゲや爺に色々教わったみたいだし。神子様は神の寵愛があるけどずっと神殿にいたでしょ?」
「…何が言いたい」
「この世界のこと、知らないでしょ」
フラノアの言葉に口を噤む。
確かに僕は知らないだろう。楽観的とも言えるかもしれない。それこそ僕の方が“知識でしか知らない”。
「僕こう見えて少し前まで1年ぐらい旅をしていたんだぁ。だから色々できるよ?……ま、嫌って言ってもついていくけどね!」
「最後の一言で色々台無しだと思う」
…そればかりはシュウに同感だな。
騒がしい旅になりそうだと思っていた矢先。
必要な物をフラノアの先導の元揃えて、王都と外を隔てる大壁の門で通行硬貨を見せると問題なく通ることができた。僕とシュウは。
レマが門兵に見せた白銀の腕輪に二度見され。
フラノア門兵へ見せたカード状の物に気がついた門兵が、大声で“フラノア殿下“だと叫んだせいで人だかりができた。
そのせいでレマにも注目がいきさらに囲まれる始末。
早々に別行動がしたくなった。
ようやく人混みを抜けて街道に出た時にはシュウとレマはだいぶ疲労している様子だった。
元凶のフラノアは慣れているのか他人事のようにそれを眺めている。
「おかしいなぁ、今の僕はただの冒険者フラノアのはずなんだけど」
「今から帰るのなら歓迎するが」
「歓迎しないでよ!…そういえば僕、君たちが何をしにどこへ行くのか聞いていなんだけど行き先は決まっているの?神子も連れちゃってさ」
「…」
まだ日の上りきっていない中、道の小石を蹴りながらフラノアが言う。
まあ…レマとシュウにはあらかた話しているが着いてくるなんて聞いていないから話してもいない。
面倒だが話しておくかと口をひらこうとした時、僕が話し始める前にレマがああ、と声を上げた。
「ロウ様、そういえば神殿から系譜を見ることができる紙を持ってきたのでした」
歩きながら肩掛けの鞄から取り出したのは茶色の分厚い羊皮紙。
丸められた紐を解き中から現れたのは何も書かれていないまっさらな紙面だった。
僕に見せるように広げられたそれを後ろからシュウとフラノアが覗き込む。
「持ってきて良い物なのか?」
「神子が触れない限りはただの紙ですので…それに、神殿ではこの小さい紙片を選紙として配っているほど、製法は難しくないのですよ?」
「せんし?って何?」
「神子を探すための手掛かりのような物です」
「…何も書かれていないけど」
「はい。ですが、神子が触れると系譜が浮かび上がります。このようにーー」
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