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「シュウ大丈夫?人型の魔物は初めてなんだよね」
「…いまはむりかも」
剣についた血を洗い流しながらフラノアがシュウにかけた声には、心配そうな言葉の中にほんの少しの共感が入り混じっていたのに気がついた。
隣ではレマがシュウの背をさすっているがあまり意味はないようだな。
僕にはわからない感情だ。
「克服出来れば強いと思うんだけどな〜。センスも感も悪くないし。まだまだ僕には叶わないけどね!って、僕正面からは苦手だけどー!」
「わかってるけど…ごめん、明日までには何とか折り合いつける。ここからもう森見えるし…うー、魔犬も慣れたし大丈夫だと思ってたんだけど結構……」
想像してしまったのかまだ膝に頭を埋めるシュウの奥、夜の闇を見つめる。
ゴブリン共の燃える火。爆ぜる火の粉から薄闇に登る煙の奥には、闇に溶け込むようにして黒い森が静かに佇んでいる。
まるで夜が包むかのようなこの森は人々の間では常闇の大森林と呼ばれていた。
「いい天気ですね」
レアルディアからルーデンスへ抜ける道を歩きながらポツリと呟かれる。
馬車2台がギリギリすれ違うことが出来る道を通りながら、国境へ向けてひたすらに足を進める傍ら、まるで散歩を楽しむようにレマは笑みを浮かべていた。
決して危険がないわけではない。しかし周りを鬱蒼とした木々に囲まれてはいるが道の上、歩きやすいに超したことはない。頭上は伸びた枝の葉しかなく木漏れ日が道に影を落としていた。
森の中を進むとは言ったがわざわざ初めから道無き道を進むほど酔狂では無い。だから大森林の中を通っている唯一の道からある程度進み、途中で森の中へと歩みを進めるつもりでいた。
何度か寄ってきた魔物をのしながら半日。
苔むした石の石碑がある場所から大森林の奥地へと入っていく。
顔にかかろうとする邪魔な木の枝を杖でのけながらしばらく進むと徐々に見えてくる獣道。かつて神殿へと繋がっていた道だ。
草が生い茂りかろうじてわかる程度だが。
「草が邪魔だ」
「仕方ないって。その女神?が隠れて結構経つんだろ」
「80年過ぎれば受け継がれなければ廃れるもんねぇ…ん、右後方にシャドウウルフの群れがきたよ」
『姿無き土塊よ形を表せ』
フラノアが指した指の先に存在する幾つもの気配。
それを刺し貫くように土を槍へと。瞬発的な硬化。十も数えないうちに物言わぬ骸となったそれを見ることなく歩き始める。
「ひゅう、やっぱり強いね〜。回収してくるからちょっと待ってっていかないで!」
「なぁ、ちょっとしか見えなかったんだけど、土の槍だよなあれって。あの土槍って最後どうなるんだ?ずっと槍の形?」
「魔力を失えば全て土に戻る。そんなこともわからないのか」
「いやわかんねぇって。俺のいた場所にそんな超常現象ないし」
「お前の記憶不足だろう。その小さな頭に入らなかったのか?わざわざ丁寧に教えていたやつの顔が報われないな」
「え゛、もしかして俺が忘れてるだけ…」
「ふん。……?」
口から出かかった言葉を飲み込み杖を握りしめる。
後ろからようやく追いついてきたフラノアが軽く息を整える中、その息の合間にささやきのように聞こえる声を聞く。
これは…怨念のような……
『ロウ、霧者がきたよ』
反射的に杖を両手で持って目の前に出すと、奥からまるで鞭のようにしなる黒紫の触手が杖を叩いた。
「ロウ!!」
巻きつけられた黒紫の鞭をフラノアが切り落として襟首を掴まれる。そのまま後ろへと思い切り引かれ数歩下がった途端、今まで自分の立っていた場所に二本目の鞭が振り下ろされた。
切られた鞭の先端から霧が漏れ出るように立ち上る。
仕切り直しするように鞭を戻しながら僕の前に現れたのは、複数の鞭を引きづりながらゆっくりと歩いてくる植物の形をした霧者だった。
…形に見覚えがある。
「グロウプラント…の形をした霧者だね。厄介な」
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