03___死を纏う男

6/10

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
植物系の魔物で人々の間では"種子"と呼ばれる成長型の魔物で、その姿は生息する場所によって多種多様に変化する。 目の前にいるグロウプラントの姿は、フラノアの言葉から考えるとこの大森林に現れる魔物そのものなのだろう。 うっすらと靄がかった気配。 魔力の波を伸ばすと目の前にいる霧者以外に奥に2つ名、右手に1つ…4つの反応を捉えることが出来る。 「4体いるよ。…霧者は触れると生気を奪われるから嫌なんだよなぁ…一歩間違えれば死ぬし」 肩にトントンと片刃を乗せながら呟く。 僕が初めてみたのはあの大きな首無しだが既に世界中に出てきているのだろう。魔物でもない、生き物でもない霧。 「……」 何か、引っかかる。 思考に沈みそうになった時、ぴたりと動きを止めていた霧者が持つ八つの鞭が一気に振り上げられる。 蔦の鞭というのは効果的だろう。しなり、地面に打ちつけた反動で縦横無尽に動き回る蔦。 触れないように最低限の動きで蔦を切り落としていくフラノアと、杖を向けた僕の前に守るように飛び出したシュウ。 別に避けることができるから余計なこととは思うが。 目の前の1匹は僕がいなくとも何とかなるだろう。なら狙うはーー 『姿無き風よ形を表せ』 杖を霧者がいるであろう方向へ向ける。魔力を練り素早く打ち出した風の槍は奥にいる霧者の体を簡単に貫く。 神に捧げる祈祷魔術が主体のこの国の魔術では傷をつけることが出来ない霧者も、僕の手にかかれば最も容易く風穴を開ける。 その事実に思わず嘲笑が浮かんだ。 空気に溶けるように薄れていく。 同時に耳に聞こえる僅かな残言を振り払いながらもう一体にも同じように風穴を開けたところで、シュウの剣先が霧者の胴体を貫いた。 まだ形を保っている霧者はしかし、体の端から霧を噴き出している。 致命傷だ。 「やった!」 「シュウ!剣を戻して!」 初めて見た霧者にも関わらず倒すことができたと理解したシュウが喜ぶ声を遮るようにフラノアが叱咤する。 その途端、森の奥から伸びてきた蔦が力を抜いていたシュウに襲いかかってきた。…反応が遅い! 「チッ…どいていろ!」 ポーチから魔術紙を取り出してシュウの前に突き出す。 紙に描かれた魔術陣に魔力を流し込むとすぐに現象が現れ始め、シュウとフラノアの前に不可視の風の壁が現れて鞭が打ち付けられた。 「っ……!」 「っし」 とはいえ魔術紙に流した魔力はそれほど多くはない。 全ての鞭を一度だけ弾いた後は役目を終え消えてゆくその隙にフラノアが躍り出る。 しかしもう一度襲い掛かろうと蠢いた鞭は瞬きのうちに力をなくし霧へと変わった。 「……え?」 消えた霧の奥。 静まり返った森の暗闇から一歩二歩と聞こえる足音とともに、何かを引き摺り地面を擦る音が耳に入る。 『…なんか、嫌』 僕の杖(ジェメリ)がふるりと小さく震えるのを手のひらで感じながら音が聞こえる方を見る。手に力が入る。 出てきたのは男だった。 ざっくばらんに切られたくすんだ金髪と黒が混じった光のない青眼。ボロを纏い露出する手から足の指まで異様な白さを感じる肌。 引き摺られていたのは黒く大きな大剣。 だが何よりも僕の感覚に訴えてくるのは“濃厚な死の香り”。 そう、かつて僕の世界で見たことがある死者に近い者のような空気を感じたのだ。ジェメリが嫌がるのも無理はない。 死をねじ曲げて存在しているものはどこか歪んでいるからな。 迷うことなく僕達の方へと歩いてくる男は、ぐるりと見渡したあと首を傾げて頷く。 元々の顔立ちなのか眉の下がった情けない顔をさらに歪め… 「えー……えっと…この先に、用があったりする…とか?」 へらりと笑い高い背を丸めながら自信なさげに投げかけられた言葉に、杖を握った手に力が入るのがわかった。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加