01___偉大なる魔術師

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「ーーなんであんた達を守るために僕も行かなきゃいけないんだ。何から守るだって?ただ中身のない話のためにお気に入りの玩具を見せびらかしたいだけだろう」 「言わせておけば…!!」 「お前は私達を守る義務があるとお分かりですか?どうしてその役目を全うしないのです!?」 冷めた目線を送る男の前を塞ぐように立ち塞がる数人の男女。皆白い神官服を着て顔を怒りに染めている。 ああ、煩い。どうしてこの僕が、お前達みたいな薄汚い奴らに指図されなければいけない。 怒りと恐怖に染まった醜い顔。その瞳には僅かばかりの愉悦と嘲が浮かんでいる。 「貴方は神に選ばれたのです。それなのに身勝手な意思など関係がないとなぜわからないのです!」 「全ての行いは神が見ているのよ!」 「はぁ…神に選ばれた?そんなことあるはずがない。面倒臭いなぁ…。ただ手を組んで、いもしない神に縋るだけの能無し集団に僕が従うと思っているとしたら、馬鹿馬鹿しすぎて笑えてくる」 「なっ…!」 「そんな口を聞いて…っ……貴方は自分の立ち位置がまだ、わかっていないようですね」 徒党を組んで廊下を塞ぐ数名の男女の真ん中を横断するように男が足を踏み出すと、触れるのが嫌だというように傍に避けていく。 まるで威勢だけがいい子供みたいに。それを見た男はつまらなさそうに鼻で笑った。 「なら強制してみればいい。どうせ、あんた達数人じゃ何もできない。話は終わり?ならもう行く」 「待ちなさい!この事はお伝えしますからねっ!我らが神の色を纏っておきながらなんたるーー」 振り返り見た顔は醜くつめる形相、今にも唾を吐き出しそうなぐらい大きな口を開けている。 いくら交わしても噛み合わない会話と、自分が正しいとなおも言い募る様子は醜い以外の何者でもないなと男は思う。 まだ猫の方が話が通じるというもの。 自らの感情全ては神の為にあるのだと、自らの行いは全て神の為になるのだと口を揃えてなんて浅ましい。逃げ口に自らの信じる神を使うこいつらが高位神官だなんて終わってる。 果たしてそれは信仰なのだろうか…と余計な考えが頭を巡った。 最後に言葉を発した女がひっと小さく悲鳴を上げて後退る。 それが許せなかったのか、醜い顔をことさら赤く染めながらさらに言葉を重ねている。 喚く奴らを無視して踵を返し、右手に持った杖を下に打ち付けながら男は歩き出した。途端、背後でまた悲鳴が上がった。 知っていた?僕は身体に異常をきたさない程度なら力を行使することができるということを。 なぜ自分達の中だけで完結しなかったのか。…自分のいいように動くとなぜ信じるのか。神だとか信仰がだとか実際にいるのかどうかも怪しい存在によくもまあ入れ上げるものだ。 自らの力も、神のおかげだと全ての思考を停止したような言葉に男は小さく舌打ちをした。 「…苛つく」 白く磨き上げられたタイルから短毛が敷き詰められた黒へと変わった道の上を早足で歩いていく。歩くたびにひらけた回廊の間から吹き付ける風に煽られ、黒い布で縛られた薄紫の髪が靡いた。 白に薄い紫を纏ったような薄紫の髪は神の色なのだと人々は言う。この世界に生まれるはずのない髪色。 僅かに朱色が混じったような金色の片目は神の持ち物だと人々は言う。この世界にあるはずがない色彩の瞳。 黄色や褐色の肌がほとんどの世界で白い肌を持つ彼は神の使いだと。国に仕える国軍の口から民衆に広がっているのは男も知っているが、そんなもので様々な目を向けられるのはどうでもいいことだ。 男は好きでこの場所にいるわけではない。 白く神聖なる神の子。信仰を集めるための偶像として、生かされ続けているのだからーー
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