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白い、白い空間。ふわりと浮き上がった足をついた地面は水面の様に揺らぎ、深くへと吸い込まれてゆく。
あの白い空間は神のいた世界だろう。
僕がアルマレリアと話した場所も永遠と続く白い空間が続いていた。
「……」
ゆっくりと沈む。
体が見えなくなり、目を瞑りながら沈んだその先は泥沼のような暗い闇。体全体が闇に包まれた時、落ちて行く先にふわりと花のような香りがした。
『ーーー』
「(なんだ……?)」
暗い闇を伝って声が聞こえた。高く、頭に響くような声…これは…
『 いらっしゃい 』
頬に触れる冷たい温度。
閉じていた目を開くと目の前の闇に女の顔が浮かび上がった。
漂う白い長髪と白の顔。目だけが金に輝いている以外はまるで色をなくした様に彩が無い。
『 待っていた……お兄様が連れてきたの……。…眠い 』
「お前はーーアルマレリアが目覚めさせろと言っていた女神か」
『 そう……お兄様は、私を起こそうとしているの…… 』
「そうだがっ……!!」
ぐるりと僕の周りを周り背後から両手で頭に触れられたとき、針を刺した様な穿つ痛みに頭が割れる様な感覚を覚えた。
同時に、中身をかき混ぜられるかの様な言いようのない気持ち悪さ。
衝動に任せて手に持っていた杖を振り抜くと、水面の様に女神の姿がぶれた。
「やめろ!」
『 …地上は…… 』
女神の姿がまた溶けてゆく。同時に神の気配も遠くへと。
『 わたしはロスワンダ。あいつ…、あいつは私の力を、領域を、権能を奪った。わたしはここから出られない。できることは、世界を、よるべなき魂を巡らせることだけ…… 』
「何を、」
『 哀れな世界の子よ。生まれ方を間違えた子よ。……封じられた肉体をお兄様の元へ……送りなさい。お兄様の愛子の様に封じられている肉体を……。依代を破壊しなさい。…かけらも全て残さずに。それまではーーー 』
「……」
「…ウ!」
「ロウ!!」
揺さぶられた手の感触と声に目を開いた。
目の前にはホッとした様な顔のシュウと、おろおろと手を彷徨わせているハイドラストの姿。
「よかった…急に倒れたからびっくりした」
「だ、だから…おれ、言ったじゃ……」
握ったままだった杖から手を離しながら体を起こすと、神殿の端のあまり崩れていない場所に寝かせられていたことがわかった。
何を…と口を開こうとした時、あの黒い空間にいた女神ロスワンダの言葉を思い出した。
「肉体を送る、依代を破壊する、か…」
「は?何それ」
「お前は知っているんだろう」
「お、おれ、は……」
口籠る男の目をじっと見つめていると、ようやく話す気になったのかしゃがみ込んだ。
「そう、ロスワンダさまは、君にも……。おれは使い勝手が…いいって言うから……」
「……」
「うん、…貴方が思っている通り、おれは、死人。でもだからこそ、ロスワンダさまの領域を…取り戻そうと思って…」
領域とはこの森一帯のことだろう。入る時にもそこかしこに死と闇の気配を感じた。先程目の前の男が地面へと大剣を突き刺した時に見えた無数の光。
死人だと言う男が発するにはあまりにも暖かい。
「お前は霧者が何か、知っているんだな」
核心にも似た言葉。
僕が触れた嘆きの声達。あの女神の言葉で全ての線が繋がった様に感じた。
世界を巡らせ、よるべなき魂を巡らせる。
夜と輪廻の女神。
その巡らせる魂は一体どこへ消えた?
女神は言った。女神が女神であるために必要な、振り翳す為の力と信仰を奪われたと。
女神の元へと流れるべきだったこの世界の魂は、女神ではなく“あいつ“へと迷い込んでいるのならば。
「霧者は”何で“できている。答えろ」
「……そう、だよ。君が、思っている通り……霧者は死者の魂を…より合わせて作られた、邪神の先兵…無限に、再生できる、神の人形。なんだ…」
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