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「まさか森の中で一夜を過ごすだなんて思ってもみなかったな〜神殿で休めばよかった」
「前にも通ったことがあるのですよね?その時はどうしていたのですか?」
「森に入る前で止まって野宿。早い時間から森を全速力で進めばギリギリ夕方には着いてたんだ。あの時は護衛依頼で馬車だったしぃ。僕もすっかり頭から抜け落ちてた」
「ここはもうルーデンス?」
「そそ。正確には森の途中からだけどね!」
薄暗い森の明るさとは違う目に痛いほどの光。
遮るものの無いひらけた青空の下、森をぬけた先にあったのは広大な平原だった。
小さな森も丘もない地平線。奥に小さく見えるのは街だろう。
手を目の上にかざしながら奥の方をじぃっと見つめていたシュウも、目が慣れてきたのか辺りを見渡しながら感嘆の声をあげていた。
呑気なものだ。
「うわぁ…地平線が見える……北海道ってこんな感じだったのかな…」
「ホッカイドウ?」
「あ、いやなんでもない……その、神殿があるのはどこ?」
「そうですね…」
真っ直ぐに続く一本道を進み始めながら、レマはうぅんと顎に指を当てる。
「私の聞いた話ですと、ルーデンスの大神殿は王都ではなく、旧王都であるディアナスにあったと記憶しております。神殿は1番信仰の集まる場所…つまり、人の多いところに出現しますので、当時の王都であるディアナスにあるのです。変わったという話は聞いておりませんので、今もディアナスにあるはずです」
「へぇ〜神殿が出現するのって人の多さなんだ!僕初めて知った〜!だからディアナスは王都移管の後も第2の王都って言われてるんだねぇ。太陽神殿にも引けを取らないほど美しい建造物だったな〜」
「アレと同じぐらいか…全然想像つかないや」
「ふふ。この辺りは神に仕える者の教育で神殿の歴史として教わりますので、一般の方はあまりご存知では無いかもしれませんね」
「確かに!いやいや、持つべきものは所属の違う仲間ってね!そうそう、結構前なんだけれどーー」
後ろで賑やかに話しているのを聞きながしながら本に描かれていた地図と現在の場所を頭の中で照らし合わせる。
歩いている一本道は森から1番近い街、イダスに通じている。旧王都までの距離はおそらく徒歩で7日ほど。大きな街は2つほど通過しなければならないだろう。
山の起伏こそないものの、国自体の大きさから歩き通しになることは間違いない。
…後ろの自称冒険者もまあ、よく口が回る。
そのおかげかシュウもレマも特に暇を感じることも気負うこともなく居るようだ。
前を向いて黙々とあるいていると手の中の杖が震える。
『ーーロウ、変わったね』
直接聞こえてくるジェメリの声。
「…何が」
『気がついていないと思うけどすごく穏やかな顔している。人が嫌いだって全身で言っていたロウの拒絶も。警戒も。侮蔑も。今は微かに残っているだけ』
「…」
『彼ら、綺麗だよ。私もすごく心地がいい。私は今のロウの方が好きだなぁ。あんなふうに人を遠ざけて、言葉で壁を作らなくても怖いことはしないよ?まぁ、ロウは素のままでも刺々だけど』
「今でもあいつらは死ねばいいと思っているが」
『あはは。同じだと思わない方がいいよ…だってあいつらは人じゃない。世界を追い詰める敵。でもこの世界は違う。世界樹は生きている』
杖を伝わってジェメリから流れてくるのは、遥か奥に枝を大きく広げる大きな大樹。どこにあるのかはわからないそれは陽を浴びて葉を輝かせていた。美しく堂々とした姿。
僕に言うだけ言って満足したのか眠るようにジェメリの気配が薄くなる。
チラリともう一度後ろに目をやってジェメリの言った言葉を反芻した。
ーー首元が冷たい。
「……僕は、それでも心から笑うことは出来ないんだろうな」
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