04___裏切り者の魔族

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人の足ではどうしても時間がかかる。遠目に見えていた街へは1日で辿り着くことができず、結局一度は野宿を挟むこととなった。 この草原は見通しが良い分魔物の姿もあまり見当たらない。 それでも四足歩行の魔物ーヴィードファングの群れを倒したのち、街の門の前に着く頃には売る分も含めそこそこの大荷物となっていた。 ……近いからとできるだけ持って行くと言ったのはフラノアだが、当の本人よりシュウの方が持っている分が多いのはどうなんだろうな。 身分証とギルドカードを提示してから街の中に入る。 「部屋は3部屋で良いよね」 「俺が良くとも第三王子(フラノア)神子(レマ)はダメだろ…」 「私は何処でも良いのですが…一度、大部屋?というところで雑魚寝というものをすることも良い経験になりそうです」 「心の中の俺が悲鳴をあげるから別でオネガイシマス」 「決定だねぇ。3部屋で、一つは2人部屋…空いてるかな?」 「あいよ。3番と4番、9番の鍵を持っていきな」 渡された鍵をもらい懐に仕舞う。 お決まりの流れで部屋の問答の後に宿を取ったあと、この街にある教会へ行くレマに付き添いフラノアが外へと出ていった。 部屋割は僕とシュウ、レマとフラノアはそれぞれ個室だ。 「俺、汗ながしてくるけど」 「別の僕に断らなくても勝手に行けば良い」 「一応だってば」 備え付けてある簡素な布を持ちながら下へ降りていくのを横目に、トントンと杖を叩くとふわりと薄紫の髪が翻った。 『ロウ、』 「…わかっている。早く進めということだろう」 『…うん。気配が強くなったよ。遠く、もしかしたらもう目は覚めているかもしれない』 「…一度封じられた癖に生き汚いものだな」 封じられたのならそのまま朽ちて消えて仕舞えば、僕がこんな面倒なことはしなくて済んだだろうに。いや、邪神がこうも無駄に足掻いたからこそ僕の望みも叶うというものか。 角にある小さな書き物机に座って足を揺らしているジェメリ。 その瞳が遠く、窓の外を見ているーーー今いる国ではない、幾つか山を超えた先にある封じの国を。 「何処だ」 『ネデル。海に面した大国』 「……」 『もし破られたらおそらく、私たちの前に現れると思うよ。絶対に私達を妨害してくる。私達のことは神の手先だとでも思ってるんじゃないかな。破られたらきっと強くなる。アルマレリアも与えないように守りを固めるだろうけれど…揃う前に、早く』 「知っている。この先にある体を天へ」 『そう』 辛そうな、気持ちを封じ込めるような声。それは人のものではなくどこか神性を秘めたようだ。 「そういえば、霧者はどうだ」 『霧者?ああ、アレね。今まではレアルディアとルーデンス、大森林にしか現れなかったけれど、どうかな』 「…何?現れていないだと?』 ジェメリは口元に手を当ててクスクスと笑っている。 『だって、邪神は月神と太陽神の系譜が大嫌いなんだって。勇者を定めたのだもの。だからイヤガラセ、されていたみたい。悪趣味。酷いね』 『目が覚めてしまったら今度は、私達を始末するために霧者を使うんじゃないかな』 「戻ったよー……って、ロウ、どうかした?顔色悪いけど…」 後ろからシュウの声がしたことで止まっていた思考が動き始める。 嫌い…嫌いだと? 「(わざわざ霧者を使って……魂をなんだと思っているんだ)」 頭の奥で反響するのは魂を揺すぶる悲鳴、絶叫。 アレが邪神のすることならば、今まで僕が手を染めたことなど所詮赤子の手慰みのようなものだ。それだけ悍ましい。 目を曇らせる霧に隠した尖兵。 「(……いや、目が覚めたのであればジェメリの言う通り僕達に仕向けるだろう。それだけの力が霧者にはある)」 「マジでどうした?」 「…なんでも無い」 ジェメリがいた場所には立てかけられた杖しか無い。 暗くなりかけている空に、今から急いだとしてできることは限りがあると思考を切り替える。 明日はすぐにやってくるのだから。
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