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「もうちょっと優しくして欲しいんだけど…」
人影のない道を歩く。ぼやくシュウを横目に苦笑を見せる神官の男に少しずつ高い塀から顔を出す太陽の日が当たる。
まだ外は寒く、冷えた空気が足元に立ち込めていた。
清々しい朝だと人は言うだろうが…どうにも、胸騒ぎがする。
“それ”に気がついたのは、参拝をするための聖堂に着いた時だった。
ほんの少しの風と共に薄気味の悪い魔力が流れる。立ち止まり後ろを見るが、何もない…いや、何もないのではなく、今から起ころうとしている。
「ロウ?どうしたんだ」
シュウの服装はいつも通り。腰にはロスワンダの神殿にあった剣を差している。こうしている間にも少しずつ、侵食するように魔力が増えていく。
頭に疑問符を浮かべているシュウは無視し目の前の神官を呼び止める。
「おい、この先は神官がいないと開かない場所があるのか」
「私は場所をお伝えするだけですので…すでにルセ様も中に入っておいでです。私がおらずとも先へ進むことはできますが…」
「場所がわかればいい。今すぐにフラノアとレマを起こしてこい。神殿に武力はあるか。神殿騎士でも国の兵でもなんでもいい」
「え?……神殿騎士が5名、もう少しすれば巡回の兵が数名こちらへいらっしゃるかと」
5人か…足りないが仕方がない。
「あと数分もしないうちに魔物が現れる。陣が組まれている。この神殿で1番強い奴にこの剣を持たせろ。恐らく来るのは霧者だ。下手に触れれば寿命を奪われるぞ」
「何故…いえ、承知致しました。お二方は?」
「ルセの元へと向かう。レマにはこちらに来いと伝えろ」
「わかりました」
「あ、ちょ「お前はこっちだ」」
神官の男にシュウの腰から剣を抜き取り渡す。時間がない。
僕が感じた魔力は既に足元まで広がり、脈打つように魔力を流し込んでいる。
術者がいるな……。
小走りになりながら聞いた手順通りに壁に力を加えて下へと続く道を開ける。僕とシュウが入ったあとは申し訳程度に結界で塞いだ。
いつまで持つかも分からないが追加が来られても面倒だ。下は長い階段が続いている。これも太陽神殿と作りは同じか。
「ロウ!俺は上に行かなくてもよかったのか?俺だって一応は戦えるのに」
まるで自分のことを考えていない日和見な思考に苛つく。
長い階段を降りながら後ろを着いてくるシュウは誰に、何の目的で召喚されたと思っているんだ。
「お前、自分がどのような状況かわかっていないようだが、この世界に来る時誰に、なんのために連れて来させられたと思っている」
「え…そりゃ、召喚したあの人達の戦力としてじゃないのか」
「馬鹿か?なんであんな簡単な上っ面を信じている。どうしてそこで思考するのを止めた」
「……」
「お前の立つその足元は薄氷の上だ。お前を召喚した奴らは今僕が消そうとしている邪神の信者共だ。お前の体である“器”が、なんのために用意されたのか知らずによくもまあ軽々しく言える」
「…なんだよ、それ。ならロウだって」
「僕の事はどうでもいい。実際僕は全く持って関係がない上、自分の力だけでどうにでもなる。ーー考えろ。常に僕が見える位置にて、手を貸せるわけでもない」
長い階段の終わり、下から上がってくる水光の中に浮び上がる水晶体。灰色の髪と黒く染まった顔。邪神の頭。
それを眺めるルセの顔には常に浮かべていた喜の表情は乗っていなかった。
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