04___裏切り者の魔族

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「…あ、お待ちしておりました!」 僕の方を見た瞬間顔を緩ませたルセ。昨日よりも幾分か落ち着きいているのはこれからのことを考えてか。 すぐに始めるのかとこちらを見るルセの前に、シュウの手に腰に吊り下げていた魔術陣が描かれた魔術紙を数枚握らせる。 「…これ」 「防壁の魔術陣。ナマクラを持つよりも良いだろう。お前の体にも使うだけの魔力は溜まっている」 「…色々勝手すぎるだろ。人の剣を勝手に渡したり、説教をかましてみたり」 苦々しく吐き出されたであろう声色は酷く苦しそうだ。お遊びでどうにかなる相手なのなら別に好きにすれば良いと思うがな。 少なくとも“この世界に連れ去られた”という事柄だけ見ればこの世界の人間よりは気を回しているだけに過ぎない。 …僕がそう思うこと自体なかったはずなのに、笑えない。 「ふん。お前の成長を待っていられるだけの余裕があれば良いがな。少なくとも今のお前にはこの僕に指図するだけの力は無いだろう。大人しく守られていろ。自分の体が惜しいのならな」 「…」 「今すぐ一枚使え。破られたのならすぐに次を発動させるぐらいならできるだろう」 横目に大人しく魔術紙に魔力を通し始めたのを見てからルセに向き直る。 相変わらず下には気色の悪い頭があるのが見えるが、ルセは見慣れているのか平然としている。 「ロウ様、本当に…本当にできるのですね?」 「少なくともレマの封じていた邪神の腕はできていた」 「いえ、それならば大丈夫でしょう!どうか、よろしくお願いいたします!月神の庭に封じておりましたモノを解き放ちましょう」 ルセが静かに足を踏み入れる。一歩歩くごとに波紋を浮かべる水面の奥には黒く蠢くものが水晶体の周りを這っている。 レマの時よりも強烈な忌避感。全てを壊してしまいたくなるような悍ましい感情を引き出そうとする。 ルセが両膝をつき、祈るように目を閉じ手をきつく組んだ姿で以前聞いたような旋律が歌われる。 「ーー・ー・ー……」 同時に、足元に浮かぶ幾十もの文字と紋様の間から競り上がる水晶体。 尋常じゃ無い神の気配…腕の時よりも、頭がグラグラと揺れる感覚を覚える。 それはこの世の悪感情を閉じ込めたような印象を抱かせた。 腕と同じ青黒い肌に生気のなかさついた黒灰の髪。眼球の無い顔、干からびた肌……生きてはいない、はずなのに、口元は常に動き続け呪詛を吐き出している。 生きながらに死んでいる神の遺骸。 杖を握りしめて水晶体に触れた途端、周りが全て消えて僕と邪神だけのような錯覚を感じた。 『我ならばオマエのその願い、今すぐに叶えてやろう。我も神の端くれ、造作でも無い』 『断る』 『我は神だぞ!オマエなんぞと一捻りで殺してしまえるのだ!さあ頷け!我がオマエのようなものに力を使うなど』 『その喋り方、どこかの誰かさんみたいで虫唾が走る。僕の前でぐだぐだうだうだとやめてくれないか?』 『ああ、忌々しい。…太陽神(あの若造)も、邪魔ばかりする死女神(小娘)も我を愚弄しおってからに……我の……我の………』 目を開く。僕はまだ水晶体に居る。 飲まれていた。目の前の邪神の意識に…。これは本格的に目覚めてきたようだな…急がなければ。 杖を握りしめて、手のひらで触れている水晶体に魔力を込めると、小さく割れる音と共に少しずつ罅が入っていく。 「ーージェメリ」 『はぁい。準備できてるよ、ロウ。……おかえり』 「ああ。始めよう」 『うん。体、借りるね』 ジェメリと重なる感覚。杖を持ちながら離れていた両手を水晶体に近づけていく。 「『大地と天を繋ぐ大いなる母よ 忘れ去られた過去の遺骸 封じられた悪神の肉を 皮膚を 灰を抱き』」 神子の悲鳴は上がらなかった。ルストロが何かしたのか。 上から徐々に溶けていき、次第に顕になっていく邪神の頭を天へと送るために魔力でがんじがらめにしてゆく。 「『繋がりを断ち あるべき世界への道を示せ』」
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