04___裏切り者の魔族

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ーーー ーーーーーー 『ロウはこれからどう動くか決めている?』 「どうも何もなる様にしかならないだろう。だが、そうだな。シュウは連れて行かなければならない」 『あの時悩んでいたのが嘘の様だね、ロウ。私はロウと同じ(・・)だけれど考えてることはわからない。教えて欲しいな。どうして急に連れて行く気になったの?』 「…状況が変わった。僕はあの時、単純に僕1人だけで動けばなんとかなると思っていた。だが神殿に、それも神子の体で封じているとなると僕だけでは時間がかかりすぎる。それに…」 『それに?』 「あの霧者…あれは魔力防壁なんかで阻まられる様な存在じゃない。あれは異質な物だ。…気がついていなかっただろうが王城にはシュウに密かに護衛がついてる。僕にもな。だがそれも万全じゃない。ジェメリはシュウの『器』をどう思う』 僕の問いに考える様に腕を組み、足をぶらぶらとさせる。 いつもの考える時の癖だ。 『…魔力の容量じゃないの?』 「違う。あれは……あれは恐らく、邪神のための器だ。呼び出した黒服はすぐに消したと聞いたが、何処かからシュウのステータスが漏れたのだろう。あれは受け皿に最適だということに」 『受け皿…』 「あれだけの器に邪神が移ったと考えるだけでも怖気が走る。手に負えなくなる。あんなのがあるなんてそれこそ僕の想定外なんだ。王城(ここ)は危ない。僕が旅へと連れていけば常にそばにいる事ができるが…ジェメリ」 『なぁに?』 「もし、もしだ。僕がシュウから離れるような事があれば無理矢理にでもいい。シュウの器を乗っ取れ。邪神が入れない様に守護に入れろ」 『…いいの?そんなことしたら、人に戻れなくなるかもーー』 「そんなこと?邪神に人格どころか魂ごと喰らわれるより良いだろう。意見は聞かなくても良い。全てを知れば…シュウは僕と同じ判断をするはずだ。誰だって死にたくはないのだからな」 ーーーーーー ーーー 「クソッ間違えた!此奴が!此奴が途中でしゃしゃり出なければ!!」 空間が切り替わる気持ちの悪い感覚と、腹に感じた熱い痛み。悍ましい魔力だ…1人だけの魔力ではなく血に濡れた、魔力の塊。 まだひりつく喉を血の塊が通る。どうやら目の前の男が蹴ったのだろう。 ゆっくりと見上げた先に見えたのは苔の群生した岩壁と、僕と戦っていた黒い男。そして後ろに控える何かを抱き抱えた灰色の髪の髪の女。 黒い爪ではなくなった腕で髪をかき上げた顔には赤い目と、額に第三の目が開いていた。 僕の方へと地面を蹴り上げながらやってきたかと思えば僕の胸ぐらを掴み持ち上げられる。 「かの方に怒られるじゃねえかよぉ!!あ“あ”あぁぁぁあっ!!クソが!なんか言ってみろよクソが!!」 あの時の笑みはどこに行ったのだろうな。と考えてしまい、思わず笑いが溢れてしまった。 「お前の狙いはあの気持ちの悪い頭とシュウだったんだろう。残念だったな。どちらももう手に入らない」 「…はぁ?意味がわかんねぇよクソが!お前をブチ殺してからもう一回行けば良いだろうがよ簡単じゃねぇかよお!!」 詰められるのと同時に首元がさらに締まる。 「ぐぅ……おめでたい、頭だな…っ!僕が離れると、器が使い物にならない、様になる…様にしている…」 「ハァ!!??おま、クソがぁ!!」 掴まれていた腕で地面に叩きつけられて、息が全て吐き出される。魔術が使えればとは思うが、喉以前に転移魔術に全てを持って行かれて今の僕では何もできない。 霞む視界の中、激昂する男を止めたのは後ろに控えている女だった。静かに、溶ける様な声で話した言葉は、こうなる事がわかっていたかの様な内容。 「ラヴェル様、落ち着いてくださいませ。私がもしもの為に用意したモノがありますでしょう」 慈愛に満ちた目で腕の中にいる何かにねぇ、と声をかける。腕の中の生き物の高い声が響いたーー赤子の声が。 「無垢なる双子ならば器の代わりになりますでしょう。早く参りましょう。彼は…そうですね。裏切り者の所へでも入れて差し上げては?裏切り者も喜ぶ(・・)でしょう」 「…チッ。クソだがその通りだ…結果だどうであれ待たせるわけにはいかねぇ…じゃあさっさと始末しねぇとなぁ!!」 風を切る様な音と共に男の腕が振り下ろされる。 瞬間、僕の首筋と胴体に深く赤い線が走った。 「……致命的な、怪我……、でも、何で……まだ息が、あるの………?」
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