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どこまでも続く白い空間。
倒れていた体を起こしてぐるりと見渡すと奥にはうっすらと何かが存在していた。
人のような姿。ゆっくりと起き上がり近づくにつれ、それは俺が一度見たことのある姿だと気がつく。
確か部屋に入る前に聞いた声。その声を聞いた瞬間、俺がこの場所にいるのなら元凶は間違いなく声の主だ。
声の主は俺が歩いてくるのに気がついて、長い髪を揺らしながら申し訳なさそうに首を傾げている。
「お久しぶり」
「……お久しぶり…ってほどでもないけど、姿を見るのは2度目だよね。ジェメリさん」
俺の言葉に、金と緑の目を細め綺麗に笑っていた。
「この白い空間は何?俺、神殿の部屋に入った所だったと思うんだけれど…」
「ごめんね。でも安心して、この場所は貴方自身の場所だから。それに時間も緩やかにすぎるから、それほど時間もかからないはず」
「俺自身の?」
さらりとした手触りの地面に座り込んだ俺の前に、足を崩して座るジェメリ。
この場所では時間が経過しないからという言葉を信じて話を聞くしかできない。だって俺はこの場所へ来る方法も、出る方法も知らないから。
「そう。貴方が持つ魂の容量。そうね…貴方が知る言葉で言えば、貴方の『器』の中といったところかな」
「器」
聞き覚え…というより見覚えがあった。
ロウと一緒に召喚された後、自分の能力が見たいと使わせてもらった石板。唯一全く意味のわからなかった言葉が、器だった。
まあ器って何?って思うよな。ロウの話だと俺の魔力の受け皿的何かみたいな言い方してたから、てっきり俺の魔力は際限なく貯められるぜ!ってことだと思っていたけれど。
ジェメリさんの様子を見るに、それだけではないようだ。
「そう、器。……そうね、当事者である貴方は聞く権利を持っているよね。ーーシュウ、貴方、自分がなんのために呼び出されたのかはなんとなくわかるだろうけど…私とロウの推測でよければ、聞く気はある?」
「推測って…いや、聞くよ。俺に聞かせるってことは、俺に関係あるんだろ」
「うん、そう。……。じゃあ話すね。全ての始まりのところからーー
私の半身であるロウ……ウィラーロウは、この世界の神様であるアルマレリアによって招かれたのは聞いたよね。その時、邪神の信者がロウとは別に召喚の形で呼び出した。それが貴方」
「そういえば…俺が初めて見た時は黒いローブの人と、あの王族の人がいたっけ。あ〜あいつらか!」
「うん。でもシュウはそんなに重要な立ち位置じゃないはずだけれど…えーと、なんていえば良いんだろう。居たら便利?喜ばれる?そんな感じかな」
「へぇ……」
えぇ、俺ってそんな立ち位置だったのか。
俺のなんともいえない顔を見たのか、ジェメリはクスクスと笑う。そんな笑わなくてもとは思うけど。
「デメノテは貴方に抗うための力を与えた。アルマレリアも貴方の存在を認知してロウに託した。だからこそ、貴方には一応聞かなくてはと思って…シュウ。貴方の器はね、恐らく邪神の母体となるために呼び出されたのだと思う」
「邪神の…母体?」
「シュウのその器。とても大きい。ロウが自分の魔力全てを貴方に渡したとして、水の一滴ぐらいだろうと思うぐらいには」
「…それで」
「シュウの器は空っぽなの。でもシュウは自分でそれを埋める術はない。じゃあそこに何を入れるの?…それこそが私とロウの推測。邪神は滅びたはずなのに生きている。だから信者たちはこの世にもう一度顕現するための快適な体を用意しようとした」
「………俺?」
「そう」
ジェメリの言葉を徐々に理解していくうちに、背筋が凍るような気持ちになる。勝手に、震えてくる。
あの時ロウが俺を庇わなければ?俺の腕に触れたあの男が俺を連れ去っていたとしたら?
あの男が俺たち側の人間な訳がない…邪神の手先で、俺が、俺の器が邪神の体となったらーー
「シュウ!」
「!!ごめん、聞いてなかった」
「もう、じゃあもう一回言ってあげる」
ジェメリの言葉に今浮かんだ考えを一旦棚の上に上げる。いや、上げられるような大きさの問題じゃないけれど。
ロウが居なくなった今目の前にあの男が現れてもどうもできないけれど…
「私が貴方の器を埋めてあげるか、邪神に体を乗っ取られる方がいいかって聞いたんだけど」
「………はい?」
ん??
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