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えーと、ちょっと待って。
考えがあっちへこっちへ飛ぶからと手でタイムを申し付けて、しゃがんで頭を抱える。
…なんだろう、俺結構自分の身が危機的な話をしていたはず。
えーと………??
「つまり、俺が邪神の入れ物になるか、ジェメリさんがなんとかして器ってやつを埋めて邪神が入る隙間を無くすーーで合ってる?」
「合っているよ」
「へぇ……」
ジェメリさんを見上げながら疑問系で返すと、返ってきたのは是の返事。
やばい…語彙力が無さすぎてへぇ、しか言っていない気がするぞ俺。
でもどことなく見知った人?だと安心する。最悪にはならないだろうって。
ちなみにどうなるのかを聞いたら
「私だったら少なくとも今のシュウのままで生活できるし、ちょっと見た目が変わったり、植物達との親和性が上がるぐらいだよ。邪神だと最後までシュウの意思が残っているのかわからな「ジェメリさんでお願いします」…だと思った」
即答だった。なんとなくわかっていたけど。あの魂を使って無限の兵を作るような奴が、俺みたいなただの人間のことを気遣うはずないって。
邪神あるあるっつうか、定番だよなぁー。
俺の返事にふっと笑ったジェメリさんは、ちょいちょいと手を拱いて俺に目の前で座るように促した。
小さな手がさらりと頭を撫でて額へと、そのまま肩に触れた所で止まる。
「ロウは、シュウが何を言おうと私が器を埋めろって言っていたんだ。でもやっぱり自分の外で話が進むのは嫌だよね。聞いた方が安心する」
「それはまあ、確かに」
「でしょう。ロウはちょっと強引だけど悪いことはないから。私と繋がりができてしまう事が、未来にどう影響するかはわからない。でも……少なくとも、今は守れるよ。だから、これからよろしくね。秋夜」
「あ…俺の名前」
「ふふっ……“大地の母の根を”」
ジェメリさんの触れた肩から暖かい何かが流れてくる。同時に新緑のような爽やかな植物の香りが通り抜けた。
瞬間、俺の目の前に劇的な変化が現れる。
俺が膝をつく地面に波紋が広がるように草が、花が咲いてゆく。白い世界を埋め尽くすように。
メキメキと割れるような音が聞こえて後ろを振り向くと、木が一気に成長して大きな傘を頭上へと広げていた。
太陽もないはずなのに葉の影が落ちる。キラキラと光る結晶はなんなのか。掴んだ光のかけらは、手を広げると粉となって空気中に溶けていった。
これが器を埋める、ということなのか。
ジェメリさんの方を見るといつのまにか両手を後ろに隠していて、半透明のはずの足がしっかりと草を踏みしめている。
「…なぁ、ジェメリさんは一体何者なんだ?」
俺の質問にふわりと笑う。
事は成したからなのか次第に遠く感じてゆく視界の中、澄んだ声が言葉となって俺の元へと届いた。
「私はエリヴェルを継ぐ世界樹。誕生を世界の母に拒絶された小さな苗木。歪な双葉の片割れよ』
目を覚ますと、俺は杖を胸に抱えながら扉に寄りかかって座り込んでいた。
どのぐらいの時間が過ぎたのかはわからないけれど…と慌てて荷物をまとめて廊下へと出る。
するとちょうど良くフラノア殿下が部屋から出てくる所だった。どうやら本当に時間が緩やかに進んでいたらしい。よかった。
「シュウ!準備は」
「すぐに行けるよ。レマさんは…」
「お待たせしてしまいました。…私が最後のようですね。ロウ様のお荷物は私がお預かり致しました」
「あっ…忘れてた」
「まあいいじゃん、忘れなかったんだからね!ようし、早く行こう!」
慌ただしい神殿の中を早足で通る。入り口の所には神殿騎士の男が立っていて、急いで準備したのだろう籠を俺に渡してきた。
雨に濡れないようにか厚手の布がかけられている。
「何もできませんでしたが、心ばかりのお気持ちです。…ルセ様に変わりお礼を、ありがとうございました。レマ様、フラノア殿下、シュウ様。ロウ様にも是非にお伝えください」
「…わかりました。お言葉、お預かり致します。次に来た時はゆっくり話しましょうとルセ様にお伝えください」
「承知致しました、レマ様」
挨拶もほどほどに目の上深くまでフードを被り直して歩き出す。
夜と輪廻の女神ロスワンダのいる神殿へ。
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