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段差の一番上に立ち、囲んでいる大勢の人間達。
彼らに属していないのであれば使える可能性がある。そう頭の片隅で考えながら現状の把握のためにもう一度周りを見渡していた。
ローブを羽織り杖を持った術者が7人。魔力量は脅威にもならない。黒鎧は騎士か。よく見ると王族と思われる人間の近くに白鎧が二人。
白い方は王族を守る近衛騎士のように見える。
煌びやかな衣装を纏っているのは一人。後ろに控えるように立っているのは目立たなくも上等な作りをした服…侍従が側近か。
一番前に立つのは王族だろうか。王というにはまだ年若い。
立ち会いは王と王妃は出てこない?何が出てくるかわからない場所に居させるわけがないか。では王子か。
隣の男も少しは動揺が収まり、今は物珍しげに辺りを見渡している。使えない時は一人で動けばいいのだ。自分にはそれだけの力がある。
神の言う通りになるのは癪だと分かってはいるが、それ以上に見返りが大きかった。
そう結論付けたところで、目の前の1番身分の高そうな男から魔力の流れる感触がした。
これは…いや、魔術体系がわからない。精神を汚染するような嫌な感じがする。…受けるか。
気をつけなければならないのは存在を縛られること。しかし精神汚染系の魔力はウィラーロウが知覚できなくとも無効となる。
自らが嫌う首元の神遺物によって。
魔術を使って縛ろうとしているということは事実、神が言ったように勝手に呼んだのだ。それにしては周りの術者共の動揺が酷いが。
「よくぞ来た、勇者よ。伝承によれば一人だとあったのだが…まあ、いい。召喚陣から現れたのだから双方勇者でよかろう。勇者よ、この国を救うのだ」
「世界を救う?……なにそれドッキリ…?」
「ふむ、言葉通りのことだ。救った暁には私が叶えられる願いであればなんでもひとつ、叶えよう。さあ名前を言うのだ勇者よ」
隣からえ、マジ…?と小さく呟く声を聞きながら思考する。
…名前、ね。
面倒だが…小さく魔術を練ると、未だに事態を呑み込めないでいる隣の青年に向かって術を放った。詠唱なしでも使うことのできる思念魔術。
近くに控える術者は僕の魔力の動きを読めないようだな。愚鈍な。
相手が思念魔術を使えなくとも言葉は伝えることができる代物。ウィラーロウは殆ど使ったことがなかったがここに来て役に立っていた。
目と体は動かすことなく前を見据え言葉を紡ぐ。
『僕の声が聞こえているのなら真名を言わない方がいい。あやつり人形になりたくないのなら』
「!!」
『ああ、僕の言葉は君にしか聞こえてない。あまり変な挙動をすると不審がられるから前を見て答えろ』
「……なまえは、シュウ」
「ロウだ」
思念魔術が使えると言うことは僕の魔術はこの世界でも問題なく使用できるんだろう。あの手の術は名前全てで効力を発揮する。
思念魔術で話した声に反応した青年ーーシュウは、先程聞こえてきた声が隣にいる男のものだと分かったのかちらりとこちらを見たあと、話しかけてきていた男に向き直っていた。
その瞳にはどういうことだと疑問が浮かんでいたが。
空気を読むことはできるみたいだな。…ああ、さっぱり話を聞いていなかった。まあいい。どうせ適当に現状だとか、自分の身分だとかを話していただけだろうし。
精神汚染系の術を使ったにも関わらず効果がないことに一瞬首を傾げていた王子は、何もなかったかのように振る舞い始める。
芝居がかった動きで両手を広げ、希うかのように顔を悲しげに歪める。大根役者もいい所だ。
見るからに権力を誇示している服装は宝石の存在が煩く、顔と言動が一致しないとはまさにこのことだと思った。
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