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「お願い! 一生のお願い!」
そう言って妹は上目遣いで私を見る。
彼女の手には四葉のクローバーをモチーフにしたネックレスが握られていた。
「やめてよ。それは私がお小遣いを貯めて買ったものなんだから」
「お願い、私にちょうだい! これ、可愛くて気に入ってたの」
「そんなこと言われても……」
「今日だけ、貸してくれるだけで良いから」
「そう言って返ってきたためしが無いんですけど」
「えへへ」
「自分の物をたくさん持ってるでしょ?
わざわざ私のを使わなくても良いじゃない」
「今日はこれが良いの! 彼との初デートはこれを付けるって決めてたの!」
「勝手に決めないでよ」
「だからお願い! 一生のお願い!」
「はあ……」
諦めを吐露するようにため息をつく。
それを了承と捉えて、妹は笑顔を弾けさせた。
「やったぁ! お姉ちゃん、ありがとね」
感謝なんて概念持っないくせに、何が『ありがとね』だよ。
心の中にモヤモヤとした澱がたまる。
だけど、それを言葉にすることの無意味さを嫌というほど知っている。
だから、私は黙って冷たい目で妹を見る。
それが精一杯の抵抗だった。
ヒラヒラでふわふわの可愛らしいファッションに身を包んだ妹の首元に四葉のクローバーが飾られる。
何も知らない人が見たら、さぞかし可愛らしいお嬢さんに見えるんだろう。
「じゃあ、行ってくるね〜」
満足げに笑いながら妹は部屋から出て行った。
最近できた新しい彼氏とのデートだそうで。
静かになった部屋の中でもう一度ため息を落として、私は再び机に向き直した。
こちとら大学受験を控えた高校三年生だ。
目標のためにも今はがむしゃらに勉強しなければならない。
(それにしても、これで何回目だろう)
もはや数えることをやめてしまって久しい。
妹の言う「一生のお願い」とやら。
二つ下の妹は昔から私のものを何でも欲しがった。
欲しがったし、奪っていった。
おもちゃ、ぬいぐるみ、アクセサリー……そして、両親の愛情。
最初は私も嫌がった。
でも、私が拒絶すると妹は「お姉ちゃんが意地悪するー」とかいって親に泣きつくのだ。
精一杯に抗議すると親からお決まりの文句が出る。
「お姉ちゃんなんだから譲ってあげなさい」
「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」
「お姉ちゃんなんだから」
「お姉ちゃんでしょ」
「お姉ちゃんなのに」
私が悔しさで泣くと、それは「ワガママ」と見做されて、結局私が怒られる。
その一方で、妹が怒られているのは見たことがない。
今なら分かる。
親にとって妹は愛玩子、私は搾取子というやつだったんだろう。
今はもう、家族に対して諦めをつけているので何の感情も湧かないけど、幼い頃は本当に辛かった。
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