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「また妹に奪われた」
「また? 何回目よ」
「もう何年も前に数えることすらやめた」
「あらら……苦労してるね」
「うん」
学校にて。
友人とお昼ご飯を食べながら、私は昨日の出来事を愚痴っていた。
高校に入って初めてできた友人。
何かと気が合って、お互いに家族や学校の愚痴を言い合ったり聞き合ったりする仲だ。
「でも、その気持ちは分かるよ。私も弟が生きてた時はそうだったから」
「あ、ごめん」
話の流れで友人の口から『弟』という言葉が出てきたので、私は思わず謝った。
彼女は何年か前に事故で弟を亡くしているのだ。
あまり気分の良い話題ではないだろうに、友人は笑って応えてくれた。
「良いの良いの、気にしないで」
「いやあ、やっぱりごめん」
「良いって。それより、現在進行形で妹に悩まされてるアンタの方が心配だよ」
「あはは。でもまあ、高校卒業までの我慢だと思ってるから」
「そっか。他県の大学を目指してるんだっけ」
「うん。とにかく合法的に家を出たくてね。
でも、学費免除とかも狙おうと思うと今の成績じゃあ、ちょっとしんどいんだよね」
「頑張って。応援してるから」
「うん、ありがとう。頑張る」
「…………」
昨日のことを引き摺っているのか、成績に対する不安からか、
多分私は上手く笑えていなかった。
友人が心配そうな顔で私を見る。
「そうだ。あのさ、今日の放課後ちょっと良い?」
「良いけど、どうしたの?」
「一緒に行きたいお店があるの」
「へえ。何だろ」
「お楽しみに」
友人が悪戯っぽい微笑みを浮かべる。
私は彼女の笑顔が好きだ。
家族といるよりよっぽど楽しいし気が休まる。
そんな友人に連れられて赴いたのが、とあるアクセサリー店だった。
裏通りの隅っこにひっそりと佇む、静かな雰囲気の店だった。
「天然石のアクセサリーかあ。綺麗なのがいっぱいあるね」
「でしょ? 私ね、これを買おうと思って来たの」
「へえ、黒水晶のブレスレットか。神秘的でカッコいいね」
「実は、これにはちょっとした噂があるんだ」
「噂?」
「うん。一つだけ、どんな願いでも叶えてくれるんだって」
「ああ、そういうやつね」
「うん。よくある眉唾物のやつ」
「何か叶えたい願い事でもあるの?」
「まあね。最近、いきなり彼氏に別れを告げられちゃってさ。
他に好きな人が出来たんだって。
ムカつくから、あの男に天罰が下りますようにって願ってやろうと思って」
「ええっ⁉︎」
「なんてね。冗談よ。もっといい男と付き合えますようにって願ってやるつもり」
「な、なるほど」
意気込んで黒水晶のブレスレットを手に取る。
そんな友人に苦笑しつつ、心でエールを送った。
「まあ、そういう訳だから、アンタも買ってみたら?」
「え?」
「志望の大学に受かりますようにって願いを込めてさ」
気休めだとは思うけど、と付け足して友人は笑う。
なるほど。成績に自信がなくて俯いていた私を励ます為に、
友人は私をこのお店に連れてきてくれたのか。
「そうだね。私もこのブレスレットを買おうかな」
「うんうん」
「ご利益にも期待したいけど、単純にアクセサリーとしても素敵だね」
雰囲気に乗せられて私も友人と一緒にブレスレットを購入した。
値段も手頃で、気楽に買えるものだった。
早速右の手首につけてみる。
なんとなく心強い気分になった。
(よし、この気分に乗って勉強を頑張るか)
ブレスレットの効果なのか、この日はなかなか勉強が捗った。
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