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追い詰められた断崖で、彼の三日三晩に及ぶ逃亡劇はとうとう幕を下ろそうとしていた。
すっかり短くなってしまった左腕を押さえ、限界の体力で追って来た少年を睨む。
「どうして……俺は! 君を友達だと、思っていたのに!」
少年と青年の間くらい、微妙な年頃の彼は、自分にナイフを突きつける少年に吼える。
対する少年は嘲るような、悲しむような、どちらともとれる複雑な笑みを浮かべた。
「ああ、僕も友達だと『思ってた』よ? だけど……君はまたひとつ誕生日を迎えてしまった」
演技でもするかのような抑揚のある言い回しで少年は続ける。
「ここはネバーランド。子供達の永遠の国でなくちゃいけないんだ。わかるかい? この国に大人は居てはいけないんだよ。この国に住めるのは……子供だけなんだ」
わかるだろ? 少年はそんな含みのある笑みを浮かべて言葉を切った。
「まさか……」
追われてきた男は絶句した。今までの記憶がまるで走馬灯のように駆け巡る。
「アークも、ビリィも、カーツも、ドーマンも、エリゼも……君がこうやって……」
少年は頷いた。
「はは! ご名答! もっともここまで執念深く逃げ回ったのは君が初めてだけどね。こんなときの為にわざわざワニ君を飼ってたのに、それも君は左腕一本を代償に突破しちゃった。おっと、左腕半分と、時計ひとつと言うべきかな?」
からかうような彼の言葉に失われた左腕が疼く。
用意したゲームをクリアされて残念がる少年に例えようの無いほどの殺意を沸き上がらせるけれども、そんな感情など関係なく、彼は手にしたナイフを振りかざす。
「けどここでゲームオーバー。僕の国に、大人は要らないんだよねえ」
刃が綺麗な一筋の光となってその胸を撫で下ろした。刹那、滴る鮮血。
「くっ……許さないっ……ああ、許さない、ぞっ……」
過度の疲労に重ねられた失血、そして最後に明かされた恐ろしい顛末に血の気を失った表情が捻り出すように叫ぶ。力なくよろめいた足が崖を踏み外し、体が大きく傾いた。
「俺はぁっ! ……絶対っにっ! 君をぉ、いや、お前を! 許さないからなあああああっ!」
その姿がはるか下の水面に落ちたことをはっきりと確認してから、少年はため息を吐いて呟いた。
「ははは、だったら幽霊にでもなるかい? なんてね。さようなら……君は今までで一番エンジョイ出来て、エキサイティングで、スリリングな友達だったよ」
少年は空を見上げてふわりと浮き上がる。
「あーあ……代わりを探しに行かなきゃ。次は女の子がいいかなあ」
すっきりと気分を切り替えて、少年は大空へ飛び出した。
彼はこの国、この空間を支配する王。永遠の時を生き不可思議な力でこの地を支配する魔王。
それから十数年の時を経て、ネバーランドに小さな影が落とされた。
永遠の国の王に挑む大人たち。
強大な王に対する為には手段を選ばぬ無法者の集団。
そのリーダーの名は……F。
Finalの一文字を名乗るその者を、その左腕に敬意を表し彼らは呼ぶ。
フックと。
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