思い出

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思い出

 翌日、突然携帯電話が鳴った。 「うおっ!?」 誰だろう。 登録してない電話番号だ。 僕は恐る恐る電話に出た。 「はい……もしもし?」 「あ、昨日の男の子で合ってる?」 「あ……その声……昨日会った……?」 「そう! 私! 突然なんだけど、私の部屋に来てくれない?」 「えっ?」 「待ってるから!」 そう言われて、断る間もなく電話はぷつりと切れてしまった。 「……一方的だな」 僕は少し呆れながら、病院へと足を運ぶことにした。 「あ、きたきた! 私の部屋にいらっしゃい」  僕はあたりを見渡す。 くまのぬいぐるみに、絵本と小説。 ピンクの毛布に棚の上には花瓶が。 そこはまるで彼女の自室のようだった。 「病室なのに……君の部屋みたいだね」 「そりゃ私の住んでる部屋ですから」 彼女はドヤ顔でそう言った。 「あ、そういえば急に電話してごめんねー でも、また会いたくてさ」 「……なんで僕の電話番号を?」 「看護師さんに教えてもらったの!」 「……はぁ……この病院、個人情報はどうなってるんだよ……」 僕は独り言のように呟く。 しばらくすると、彼女は机の引き出しから携帯を取り出した。 病室の窓から夕日が差し込む。 その夕日を、僕らは見ていた。 夕日に照らされている彼女が、美しくて。 『夕映え』という言葉が本当に似合っていた。 すると、彼女は僕の方を振り向いてテンション高めで言い始めた。 「ねぇ、写真撮ろうよ!」 「えっ?」 「もし色が見えるようになったら、私のことも見えるようになるでしょ?」 でも、写真は……。 「写真は……好きじゃない」 僕が俯きながらそう言うと、パシャッという音が聞こえた。 「ふふふっ、油断してる顔撮っちゃったー」 「え、ちょっと……!」 「いいじゃん 一度撮ったら何も変わんないよ」 「それは……そうかもしれないけど……」 「ならいいじゃん、撮ろ?」 ニコっと笑った彼女はそう言って携帯を軽く掲げた。 「……はぁ、わかったよ」 「やったぁ!」 彼女は喜んだあと「ちょっと待っててね」と言って、自分を撮り始めた。 「これでよしっと」 「なんで自分を撮ったの?」 「んー? こういう自分もいたんだよって記録 思い出になるでしょ?」 「でも……それって嫌な思い出じゃないの?」 僕の言葉を聞くと、彼女は夕日を見上げた。 「……そうだね、でも……」 しばらくの沈黙。 太陽の光が、温もりのように暖かい。 「……忘れたくない、から」 彼女の顔は少しだけ寂しげに見えた。 「それよりさ! 二人で写真撮ろ?」 彼女は僕に近づくと、姿が携帯に映るように腕を上に上げる。 「ほら、ちゃんと笑って!」 彼女に言われて口角を上げる。 うまく笑えてるだろうか。 「はい、チーズ!」 カシャッという音とともに写真が撮られる。 「お、撮れたかなー?」 彼女は写真を確認する。 「あ、撮れてる撮れてる! ほら、みてみてー!」 その時見せてもらった写真は、僕には色がついて見えなかったけど。 彼女の笑顔は母さんに似ている気がした。
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