約束

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約束

「あ~、楽しかった!!」  そう言って彼女は背伸びをして、窓の外を見る。 「あ! 見て! 夕焼雲きれいだよ!」 僕は彼女に言われて、渋々だが外を見た。 「だから僕には白黒にしか見えないんだって……」 「でも、映画みたいでしょ?」 そう思うと、少しだけ。 「……うん」 「ふふっ、やっぱり素敵だよ 君のその目は」 彼女は笑ってそう言うと、窓の外を眺めていた。 「……ねぇ」 僕は声をかけた。 「ん?」 「なんで夕焼けが好きなの?」 少し黙ったあと、彼女は答えた。 「……夕焼けってさ、赤とオレンジで、いつまでもきれいで、どこまでも広がってて 目に焼き付けたくなるの」 「……そっか」 カラスの声が聞こえる。 時計を見ると、もう5時だった。 あぁ、もうそんな時間か。 じゃあ帰らないと……。 「ごめん、そろそろかえ……」 僕の言葉を遮るように、彼女は大声で言った。 「あ、連絡先交換しておこうよ!」 「えっ?」 「携帯ある? あ、あるじゃん! 貸して貸して!」 「え、ちょっと……」 勝手に携帯を取られて戸惑う僕に、彼女はニコニコと笑う。 「……よし、これでできた!」 そう言って僕に携帯を返した。 「えへへー、これで連絡取れるね!」 笑う彼女に僕は呆れて答える。 「……僕そんなに携帯見ないよ?」 「それでも、離れてるんだから連絡は取りたいじゃん ね? いいでしょ?」 しばらく僕は黙ったあと「はぁ」とため息をついた。 「……わかったよ」  その後、彼女は夕焼け空を携帯で撮っていた。 「……やっぱきれいだなぁ」 「……ほんとに好きなんだね」 「君は嫌いなの?」 僕は少し黙ったあと、答えた。 「……どうだったかな」 白黒の世界で、夕日が沈んでいく。 その日見えた病室からの景色は、なんだか色がついたように見えた。 「夕日、どうだった?」 僕は彼女の問に少し間をおいて答えた。 「……まだわからないな」 そして夕日を見て続けた。 「……君みたいに大人には……しばらくなれそうにないや」 「なにそれ」 彼女はくすりと笑うと僕と同じように夕日を見つめる。 「……でも…… 君の目を通すと、この世界って残酷だね」 残酷……か。 「……そうだね」 静かな病室に、僕はポツリと呟いた。 「……本当に……記憶の中は……残酷だよ」 ふと、横にいる彼女を見てみる。 白い夕日に彩られる彼女が、寂しげに笑う。 心がえぐられるような感覚がした。 「……ねぇ」 「ん?」 僕は決意した。 「突拍子もないことを言ってしまうけど、もし君をこの真っ白の箱庭から連れ出して、いろんな色を見せてあげるって言ったら……どう思う?」 彼女は笑って答えた。 「なにそれ! おもしろそう!! まるで私はとらわれのお姫様ね」 「お姫様……か じゃあ僕は王子様になるのかな?」 僕は少し笑いながら答えると、彼女は僕の顔を見て言った。 「ねえ、王子様 ほんとにわたしを連れ出してくれる? この白いお城から、私をさらって、誰も見たことない素敵な色を見せてくれる? 白黒世界の王子様?」 ……なんだかまるで、ロミオとジュリエットだ。 でも、あんな結末にはさせない。 「……絶対連れて行く 君ってなんだか母さんに似てる気がするんだ ……大好きだった、この目をくれた母さんに」
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