異変

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
翌日、病室を訪れてみると、何事もなかったように、もぬけの殻だった。 ただ、秒針がカチカチと音を立てるだけで。 「……あの」 僕は通りかかった看護師に声をかけた。 「どうかしました?」 「ここの病室にいた子って……」 僕は目線を病室に向けた。 「あぁ、それなら…… 昨日の手術で亡くなりましたよ」 「……えっ?」 「もしかして、お友達でいらっしゃったんですか?」 「……あぁ、はい…… そんなところです」 「そうですか……お気の毒に」 看護師はそう言ったあと「あぁすみません、そろそろ仕事があるので」と言って、小走りに消えていった。 「なん……で」  彼女の死を聞いた時。 今まで見えてた白が黒く染まったような感覚に陥った。 白いインクに黒いインクが溢れたように。 波紋のように黒は広がっていく。 ーー黒が僕を否定する。 見てる景色を。 僕自身を。 その全てを。 彼女は僕の『白』だった。 僕にとっての『夕焼け』だった。 輝いて見えたんだ。 初めて出会った時はそう思えなかったはずなのに。 でも、もう……彼女は……。 「……っ!」  僕は目を瞑った。 でも目を閉じた先も暗闇で。 余計怖くなって、僕は空を仰いだ。 カチカチと点滅する蛍光灯。 昨日まで見えていた白いオレンジが、瞳から少しづつ消えていく感覚がした。 ふとベッドの上を見た。 何もない、白いベッドの上を。 「……君の時間は……僕を置いたまま、止まってしまったんだね」 そう独り言を呟き、時計を見ると時刻は15時55分だった。 そういえば、いつも会っていた時間は、16時ぴったりだった。 「……っ」 僕は走った。 彼女の残像が。 あの夕日に照らされていた彼女が。 屋上にいる気がして。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!