出会い

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出会い

ーー初めて会った日から、やけに時計が気になった。  病院の待合室の中、僕は呼ばれるのを待っていた。 「……はぁ」 色盲になってから、もう何年経っただろう。 この病院に通うのも、そろそろ飽きてきた。 「ねぇ」 女の子の声が聞こえて、俯いていた僕は顔を上げた。 「靴下、片方違うよ?」 彼女は僕の靴下を指さしてそう言った。 よく見ると、彼女は病院服を着ている。 ここに入院している子だろうか。 「……あ、僕?」 僕が言うと「君以外誰がいるの」と彼女は笑った。 「ドジなんだね」 「いや……色がわからないというか」 「色?」 「白と黒にしか見えてない」 彼女はそれを聞くと、少し小走りで絵本を取ってきた。 「……絵本?」 それを開くと、彼女はりんごを指差す。 「これは?」 「赤」 「りんごは分かるんだぁ」 「ちょっと前に、見えなくなっただけだから」 その言葉を聞いて、彼女は上を見上げた。 「じゃあ、時計」 「時計?」 「時計は白黒のままじゃない? だからいいと思って」 「……でも、なんだか現実味が無いんだよな」 そんな話をしていると、僕の名前が呼ばれた。 「ごめん、ちょっと行ってくるね」 「あ、待って!」 「……何?」 「終わったら見せたいものがあるの 屋上に来て!」 だいたい予想はついていたけれど、断るのはなんだか可哀想だった。 「……わかったよ」 「ふふっ、待ってるね」 彼女とそんなやり取りをしたあと、僕は診察室へと入った。
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