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その日は正に「春爛漫」という言葉通りの日で、突き抜ける様な青空とはらはらと散る桜の花びらが良く似合っていた。
私は久しぶりに着る礼服と少し窮屈なネクタイを気にしながら、その寺の階段の脇にある喫煙所でタバコを吸っていた。
駐車場の端に停めた私の車には、塀の外にある桜の木が散らす花びらに彩られている。
私は桜が好きではない。
普段から皆にそう言っている。
「兄貴」
そんな声に振り向くと弟のユウジが慣れない革靴の爪先をトントンと鳴らしながら近付いて来る。
「おう…」
私はユウジに微笑み、また視線を桜に戻した。
「タバコくれへん」
ユウジは私の胸のポケットに手を伸ばし、タバコとライターを取った。
「何か、こんな時しか親戚の顔も見れへんって寂しいな…」
ユウジは風を避けながらタバコに火を点けると、タバコとライターを私に返した。
それを受け取り胸のポケットにしまう。
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