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男との情交など、もっと荒っぽい、殺伐としたものだと思っていた。本来、「犯す」性である、オス同士で目合うのだ。抱かれるというよりも、犯されるという印象の方が強かった。有朋の方も、女が男を抱きとめるようには、相手を柔らかく受けとめてなどやれないはずだった。
だが、そうではなかった。求め合い、与え合う。いっそ一つに溶け合いたいと、互いのうちに飲み込まれたいとさえ思う。崩されまいと普段は必死で支え、固く守っている自分を、この時だけは―――抱きとめられると判っているこの時だけは、有朋はあえて投げ出すことができる。こんな解放感と安心感、そして深い愉悦を、有朋はかつて味わったことなどなかった。期待どころか、想像さえしていなかった。
有朋は、さすがに少し気だるさを感じつつも恋人の言葉に応えて半身を起こした。穏やかな笑みを浮かべる唇にそっと己のそれを重ねると、腰に腕を回された。
「山縣さあ」
大きな眸が、じっと有朋を見つめる。
「ん」
「明日、馬でん無理なほど積もっとったら、もう一泊すっか」
「生憎だが歩いてでも帰る」
即答すると、はあ、と慎吾は嘆息する。
「………つれない」
「当たり前じゃろう。大体おめえは―――」
言いかけたところを、腕を掴まれ、仰向けに押し倒された。
「こらっ!」
のしかかりながら、慎吾は低く言った。
「そいならほんごつ、足腰ば立たんごつすっで」
「やれるもんならやってみい。わしはそれほどヤワには出来ちょらん。腰抜かすんならおめえの方が先じゃ」
「………」
実は情交に関してはそれほど自信を持ってそう言い切れるわけでもない。半分は売り言葉に買い言葉だが、ここで言い負かされては上官としての自尊心が傷つく。
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