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一 まぼろし
大空をかよふまぼろし 夢にだに
見えこぬ魂の行く方たづねよ (源氏物語 幻)
遠い蝉の声に耳を傾けていると、かさり、と背後で紙が音を立てた。
「おっと」
続いて聞こえてきたのは、慌てたような声。
煙管を咥え、文机に肘をついてぼんやりと庭を見ていた副島種臣は、物憂く背後を振り返る。
そこには、意外な人物がいた。
「義四郎?」
「久しぶりじゃの」
旅姿の木原隆忠、通称義四郎は、かがみ込んで床に散乱している紙を重ねながら笑顔を見せた。木原は母方の従兄で、また妹が副島の亡兄、枝吉経種(神陽)の妻でもあった。二人ともとうに故人だが、その関係では義兄にあたる。年齢は四十六歳で、副島とは同い年だ。藩校弘道館でも共に学び、兄弟のように交わってきた間柄である。
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