人魚のたまご

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 押し寄せる生臭い空気に押し出されるように後ずさる。  その時、彷徨った目線がいつも笹爺が寝ていたあたりの場所に、奇妙な形のものを見つけた。丸い、器のような形のものが二つ、ころんと転がっている。  ――あれは。卵の、殻……?  卵が、孵った? 人魚が、生まれたのか?  じゃあ、この血は? 笹爺はどこに?  多朗は操られるように小屋の中へと一歩踏み出した。びちゃり。びちゃり。足を進めるたびに、水音が小屋に響く。  身を屈め、血塗られた卵の殻を手にとった。  やはり。血で覆われて表面の色はわからないが、きっとあの卵の殻だ。  他の人間からは隠さなければ。  頭の中は正常に働いていないのに、そんなことが思い浮かび、多朗は二つとも拾い上げると小屋を飛び出し、裏手に回って(くさむら)にそれを押し込めた。  そして、足も手も血に染めて、坂を駆けあがった。
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