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その日は夜まで村はひっくり返したような騒ぎになった。
人殺しどころか、ここ最近は病で亡くなる人すら出ていなかった村では手に負えない事態だった。亡骸が残っていないから、なおさら。
弔いをしたらよいのか、人探しをしたらよいのか――。
困り果てた村人たちが頭を寄せ合い相談をして、隣村から呼ばれたのは「お祓いをするための祈祷師」だった。
はるばるやってきた祈祷師は白髪を腰まで伸ばした老婆だった。
白い装束に、首からじゃらじゃらと数珠を下げている。
祈祷師が坂下の小屋に向かうと、村人たちは祈祷料の支払いについてこそこそと打ち合わせし始めた。誰も、笹爺がいなくなったことを悲しんでいたりしていないのが、多朗には少し寂しかった。
ただ――この状態は多朗には都合がよかった。
祈祷師に、聞きたいことがあったからだ。村人には聞かれずに。
母親から家にいるように言いつけられていたが、こっそりと多朗は祈禱師の後を追いかけた。
すぐに、小屋の入り口で中を覗き込む祈祷師に追いついた。
祈祷師は手に下げた数珠をしっかりと握り、怪訝な顔で眺めている。
多朗はそろりと小屋の裏に回り、あの、卵の殻を探した。雨で、覆っていた血液はいくらか落ちている。気味が悪かったが、この機会を逃せない。多朗は歯をくいしばってそれを手に取った。
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