人魚のたまご

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「そうさね。それも人魚だ。だがね、それだけじゃない。人魚は二種類いる。あんたも想像している、下半身だけ魚の見目麗しいもの。そして、全身が魚と人間の交じり合った禍々しいもの。それは理性を持たず、生まれたときに自分を温めていたものを食らう」  祈祷師の言葉に、多朗は胃の中のものが逆流しそうになった。 「どうも、卵の中で匂いを覚えるらしいね。恐らく本能なんだろう。人魚の卵を知ったものを、絶えさせるという。身を守るための……」  紙のような顔色になった多朗に気づき、祈祷師は言葉を切った。瞼がぴくぴくと痙攣している多朗を見て、 「まさか、あんた……温めたのかい。これを」  多朗がごくりと唾を飲みこむ音が祈祷師にも聞こえた。祈祷師は多朗の手からもう一つの殻も取り上げ、 「悪いことは言わない。今すぐお逃げ」  多朗は殻を持った格好のままの自分の手を呆然と見て、ぎくしゃくと祈祷師に顔を向けた。 「逃げる……でも、どこへ? おとうと、おかあに何て言えば……」 「海から少しでも離れた場所へ、だよ」
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