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多朗は竹ひごで編まれた笊を胸に抱えて、潮風に逆らって村の中の道を駆けだした。朝食を平らげて腹も満たされ、坂を下る足も軽い。
目指していた海近くの小さな掘っ立て小屋にすぐ到着した。
がたつく木の戸を、遠慮なしに叩き、
「おーい、笹爺。飯だぞぉ」
と大声で呼びかける。大きな声でないと、海風にさらわれて中まで届かない。
しばらく間があって、
「開いとるぞ」
と中から声がした。多朗は戸を開き、中に入った。
元は、村で漁の道具を仕舞うのに使っていた小屋らしく、竈も囲炉裏もない。拾った流木を敷き詰めた、地面よりはまだいくらかましな板間があるだけ。
その真ん中に寝床にしている稲わらの敷物があり、あとはそれを取り囲むように大小様々な大きさの木箱が雑然と置かれている。独特な、生臭さが薄っすらと漂う。
この小屋に住んでいる、笹爺と呼ばれる老人が稲わらの上に胡坐をかいていた。
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