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「笹爺、今日の飯だぞ。干し魚は、俺が炙ってきた」
「おぉ、そうか、そりゃ美味いに違いない」
笹爺は相好を崩し、多朗が差し出した笊を両手で受け取った。
――多朗が物心ついたときには笹爺はこの小屋で寝起きしており、村の者たちが順番に食事の世話をしていた。
面倒をみてくれる家族はおらず、村の掟が「相互扶助」だったから見捨てることはできず(最初の悪人になりきれる者がいなかっただけだろうが)、渋々ながらこうして食事を届けることになっていた。
村の大人は寄り付きたがらず、いつのまにか多朗が食事を運ぶ役目を負っている。
ただ、多朗本人は嫌々しているわけではなかった。
他の家が飯当番のときに運んでやれば、お礼として団子をくれたり、単純にお礼を言われることも嬉しかった。
そして、笹爺の話を聞くのが嫌いではなかったからだ。
「なぁなぁ、笹爺。昨日の、人魚の鱗、もっかい見せてくれよ」
多朗は近くにあった木箱に腰を下ろし、唇を尖らせた。
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