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ある、風の強い朝のことだった。
曇天の下潮風が吹きすさび、笹爺に食事を運ぶ多朗の体を押し返していた。生ぬるい風が、これから降る雨を予告しているようだった。
どうにか風に逆らって、掘っ立て小屋の前に着く。
いつものように戸を叩き、
「おーい、笹爺。飯だぞぉ」
と声を掛けた。――返事がない。
しばらく待っていたが、ぽつりぽつりと多朗の頬に雨の粒が当たり始めた。
笊の上の握り飯にも落ちてきて、多朗は庇うように体を折ると、
「笹爺!濡れるから入るぞ!」
と怒鳴るように言って、戸に手を掛けた。
――一瞬抵抗があったが、力を込めると戸はざりざりと砂の噛む音を立てて開いた。
中に飛び込むと、稲わらの筵の上に横たわって体を丸めた笹爺と目が合った。笹爺は驚愕の表情を浮かべ、多朗を見上げながら――慌てて、その腹に抱いたものを隠そうとしている。が、そうそう機敏には動けない。多朗が戸の間から吹き込む雨を背中に受けているとき、笹爺の手から何かが転がり出た。
それは、漬物石くらいの大きさの、卵……に似た形のものだった。
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