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「あまりにも物珍しいものばかりで……儂はどうにも好奇心を抑えきれんかった。人魚たちの目を盗んで、御殿の中を見て回った。本当に素晴らしかった。この世のものとは思えんかった。昨日のように思い出せる、極楽というものがあるならこんな場所なんだろうと。――そしてな。そこで見つけたんじゃ。真綿の布団のような海綿に、大事に寝かされた、人魚の卵たちを……」
「卵、たち?……いっぱい、あったの?」
「あぁ、そりゃあもう沢山な。一つ一つ色合いが違って、やんわりと光って……あれが御殿の中で一番美しかった……」
多朗はごくりと唾を飲んで、卵を見据えた。
これ一つでこんなに綺麗なのに、それが沢山……。
「儂は……見ているうちにどうしても、これが欲しくなった。こんなに沢山あるなら、一つくらいいいじゃろうと、思わんかったとは言わん。じゃが、人魚一人の命を救ったんだから、卵を一つもらってもよいじゃろうと思わんか?」
冷静に考えれば、それは盗人の論理だと子供の多朗でもわかった。――だが、多朗の頭を占めるのは最早、それと同じようなことだった。
……俺も欲しい。触れてみたい。
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